立ち昇る神気
「倉廩実つれば則ち礼節を知り、衣食足れば則ち栄辱を知る」管子の言葉であったか。
衣服と食物は、生活をする上での根本であり、それらが満たされることによって心にもゆとりができ、礼儀を知ることができるもの。そう言った考えだったか……。
人が生活する上での、最低限の尊厳……。
人が、人である所以……。
零からの出発に、満たされぬ事は多いが、願わくば、心に錦を掲げ、天寿を全うしたいものだ……。
『さてジャショウちゃん。改めて、獲得品のチェックをしましょう』
「いや、今はいいです」
俺は、キッパリと口に出して言う。
俺は、嫌な事はしっかりとNOと言える男だ。
何度も言うが、俺達は腹が減っている。ハングリーだ。ハングリー!
『でも、お金の入った袋、かさばっているよ?』
今の俺の装備と言ったら、布の服に、腰に付けた、五十六個の金の入った袋。薬草の束に、そして、ゴブリンの耳を通した蔓を、首にぶら下げている。
近づいて見ずとも、変質者……。
良く見て、どっかのキチガイ部族だ。
全然良く見て無いって……?
変質者は、道理の通って無い奴の事。キチガイ部族は、部族の中では、道理が通っている。ある一定空間の中では、第三者の目から見ても、変では無いだろ?
『ジャショウちゃん。所々、思念が漏れているけど、随分、自虐的だよ?』
何とでも言ってくれ……。
ああ、でも、どうせ例えるなら、御首級に、耳を取って首にかけている足軽みたいだと思えばよかったか……?
何にしても、異世界転生のススメの影響だろう?
どんどん、俺のキャラ設定が、薄れて行っている……。
まあ、俺にとっては、どうでも良いが……。
でも、俺、思うんだ……。
普通の冒険者って、こんなものじゃ無いの?
異世界転生のススメに出てくる冒険者って、身軽すぎやしない?
うわ。あなたの装備少なすぎやしない?
森や山歩くのに、ビギニアーマーーって、なめすぎ。
野営の準備大丈夫?
食料、現地調達って、夢見すぎ。
そんなに簡単に、調達できるなら、出来るんなら……。
「うが~~~。腹減った~~!」
さっきから、森の中を歩けど歩けど、鳥一匹、居やしない……。
鳥の囀りは、聞こえる。しかし、俺が近づくにつれて、どこか遠くへと、飛んで行ってしまうのだ……。
「おかしい……。気配は消しているんだが」
俺は、滴り落ちる汗を拭い、ぼやき始める。
『ジャショウちゃん、ジャショウちゃん。いくら気配を消しても、体内から溢れ出ている、気の量が、異常よ』
「ああ?」
『やさぐれない。ジャショウちゃん、自分がどれだけ異常か理解しきれて無いでしょう?』
ナビ子に指摘され、その場に立ち止まる。
体内の、錬気に意識を集中する。
錬気は体をめぐり、天へと昇らん勢いで、漏れ出している。
「これ、あかんやん……」
俺は慌て、錬気を制御しようとする。
しかし、体内に溜まった錬気は、虹色に輝き、光を増していく。
『ジャショウちゃん。錬気が、進化を遂げようとしてるね』
『進化……?』
進化とか言って、ポ〇モンか……!
『人中の気から、神域に変わりつつあるのよ』
ナビ子の解に、小首を傾げる。
神域……?
何を言っているんだ、こいつ?
なんか中二病心が、くすぐられるんですけど。
いや、いかん、いかん。しかも、こう見えて俺は、人間だ。
こんな事で、萌えてどうする。
冷静になれ、たった数回の戦闘で、何が変わるというんだ……?
いや、しかし、ここんところで、能力値が一気に飛躍したしな……。
いやだが、高々、ゴブリン相手だぞ……。
『疑わしく思うのは、解るわ。けど、終われた記憶が蘇り、半神半人としての性が、蘇りつつあるのよ。今のあなたは、天災級……』
『天災……?』
『そ、天災。ユグドラシルにも感化されて、異常さが増してるってこと』
これは、参った……。ナビ子は、冗談を言っている風ではない。
現に、いくら力を制御しても、立ち上る錬気を、消しきることが出来ん……。
「なあ……」
『無理よ!』
俺が、話しかけた瞬間に、回答が返ってくる。
「俺、まだ、な……」
『無~理!』
ナビ子の頑なな、反応に困惑する。
『ジャショウちゃん。某バトル漫画の主人公だって、重力十倍に慣れるのには苦労したけど、二十倍から百倍までは、あっと言う間だったじゃない』
何を言ってるの、この子……。怖い。
例えが、古いうえに、ぎりぎりアウトだ。
それに、その例え、俺には解らん。本当だ、本当に解らんぞ。
これ以上、この話題を続ければ、何だか、やばい事になる様な気がして、今度は、俺が耳を塞ぐ。
しかし、十倍の重力克服の苦労に相当する努力……。して無いんだけど俺……。
はっ!?
いかん、いかん。この話題は、無しだ。
うん。無しの方向で……。
『で、神域って何?』
俺は、必要に言葉を選び、おずおずとナビ子に、質問を投げかける。
『神域って言うのはね、神の纏う闘気の事よ』
うん。中二病と言うやつだ……。
試しに、ここに来て最初に撃った放気と、同じ量の錬気を手の平に練り、放ってみる事にしようか……。




