いい加減、転生者やろうよ!
厄介事と冒険は、似て非なるものである。
勇者なるものは、その違いを理解していない面がある。
そして俺は、勇者なる大業な存在では無い。
ただ、そこにあり、その日を生きる。
無情な世界を、渡り歩き。
時には、人助けもするだろう……。
けれど、決して、勇者なるものでは無い。
自由に笑い、自由に泣く……。
今を生きると言う事は、そう言う事だ。
「サクヤ~。お腹空いたな~」
俺は、明後日の方向を向き、爽やかな笑顔で、サクヤに語り掛ける。
サクヤも、何かを察したのか、お腹をさすり、こくりと頷く。
『神様の、事情は、よう解らんよ』
余計な事を言うな、サクヤよ……。
涙目の、ナビ子の顔が浮かぶ。
『ちょ、ちょっと~。二人とも~』
ほら、やっぱり来た……。
日は高く上り、正午に差し掛かる。
腹が減っているのも、本当だ……。
何時しか、ゴブリンに着けた炎も沈下しており、飯の種を探したいと思う気持ちがある。
しかし、燃えてからは、早かった。
ゴブリンは、あまり、脂肪分が無かったのだろうか……?
数刻もたたず、火の手は弱まった。
これなら、ほっといても大丈夫だろう。
それより、問題は……。
ナビ子には、悪気は無いのだろうが、神様の事情に付き合うほど、俺も出来た人間じゃない。
『だって、だって、ジャショウちゃん、せっかく転生したのに、自分のキャラ設定生かしきれてないじゃない……。向こうの、知識生かして、変わったアイテム作るわけでもないしさぁ……』
この女神、人のキャラ設定に、ダメ出し始めたよ……。
大体、記憶を失っている俺に、何を求めているんだ?
そもそも俺は、戦う事しか脳が無い。
俺はため息をつき、両手に目をやる。
そう、俺には、戦う事しか出来ないのだ。
『なあ、ナビ子……。そもそも、おかしいと思わないのか?異世界転生のススメに出てくる転生者の多くは、ニート、学生、普通のサラリーマンとかなのに、特殊な調味料や、近代様式のアイテムを、ほいほい作り上げるが、それって無理があるよ……』
『う~~~』
『専門知識があったって、特殊な物が無い世界で、クオリティーの高い地球のアイテムを作るなんてさ……』
『そ、それは……。魔法とかで……?』
何を言っているんだ?まったく……。
例えば、俺からして、未来の飲み物、ビールにしたって、良い物を作るには、麦芽の条件として、穀粒の大きさ、形状が均一で大粒であること……。
穀皮が薄いこととか……。
その他にも、色々条件がある。
そう言った条件を、見極める目も無いし、分類するにも、莫大な時間がかかる。ナンセンスすぎる……。
車もそう、エンジンのピストン部分の、密閉性を再現するには、相当な、技量が必要だし。ガソリンと言うのも無い。魔法を代用するなら、エンジン部分は、モーターの置き換える方が、現実的か?
どっちにしたって、知識も、技量も無い。
異世界転生のススメの所為で、変な知識ばっかあるが……。
気を取り直して、俺のいた?時代の技法なら、刀の製鉄か?
しかし、そんなものは、鍛冶師では無かった俺にとっては、理解する事が出来ないし、再現する事は出来ない。
そもそも、造ったところで、斬り結べるのは、数回だ。
時代劇じゃ無いんだ。刀なんて数回で、刃こぼれするか、血油で、斬れなくなるのが関の山だ。
そんなもの使うなら、創気で造った刀を利用する。
俺は肩をすくめ、首を横に振る。
『ナビ子ちゃん。あんま、わがまま言うもんじゃ無いんよ?』
見かねたサクヤが、ナビ子を諭そうとする。
『でも、でも~~』
『なら、最近はやりの、魔力やお金で、地球の商品を取り寄せる、チートスキルとか無いのか?』
『うっ……。な、い……』
なんだ、今の間は?
さっきからこの女神、言葉を濁してばっかだ。
概ね、頼りになるんだが、何分、夢を追いすぎる。
俺に何をさせたいんだ?
『本当は?』
『出来ない事は……ない』
『だったら……』
『でも、でも。他の世界の物を、ホイホイと持ち込んでしまったら、世界バランスが、崩れてしまうわ』
言ってることが、めちゃくちゃだ……。
さっきから支離滅裂。あちらの世界の物が欲しいのか、欲しくないのか、訳が分からん。
『あっちの世界の物を、こちらに転移させたくないのに、なんで作り出したいの?』
『だ~か~ら……。あちらの技術を応用して、文明を発展させるのは良いけど、直接、転移するのはまずいのよ……』
『物質の、構造が違うから?』
『うん……』
異質……。
やはり、道理が違う。
在るべき物は、在るべき場所に……。
物事は、都合よくいかない訳だ。
『あちらの世界の食べ物は、栄養価が高すぎるし、マナが殆んど無いし……。こちらの人間が食べれば、毒にだって為り得るわ』
全てが異質で、生命の循環もまま為らない。
『道具もそう……。物に宿る、個体エネルギーが高いから、アーチファクトになっちゃうの……』
『けど、俺には、物作りなど出来ないぞ?』
俺は頬を掻きながら、核心を突く。
何度も言うが、俺には、戦う事しか脳が無い。
知っている事と言えば、人体の急所と、敵を仕留める技ぐらいなものだ。
チートスキルも、特に無し……。
手に汗握る、心理戦も出来なけりゃ。特殊なスキルで、トリッキーな戦闘も出来ない。
ただ、力に任せて、暴れ回るぐらいの事だ。
それなのに……。
そんな俺に……。
『うん。だから、魔王退治しよ♪』
『なにそれ、怖い……』
何、軽いノリで言ってんだコイツ……。
一瞬、ナビ子が、神様だって言うこと忘れて、毒を吐く処だったじゃないか。
『冒険するにも、目的があった方が良いじゃない♪』
『そんな目的、いらない』
別にメンドクサイ訳では無い……。
断じて、メンドクサイ訳では無い……。
強い奴と戦えることは、むしろ、ウエルカムだ……。
が、神様の尻拭いと言うのは、頂けない。
……。
ごめん。うそ。正直メンドイ……。
一人ならともかく、まるでバーゲンセールみたいに多くいる魔王を、一匹ずつ駆逐するなど、メンドクサイ事このうえない……。
『ふふふ……。奴は魔王の中でも、最弱』とか言って、わらわら出てくんだろう?きっと。
そもそも強さだって、この世界が、平穏な処を見ると、それほどでも無いのだろう……。
まあ、未だ、森から出ていないのだが。
と言うか、人間にも会っていないのだが……。
少なくとも、世界樹の周りは、平穏無事だ。
俺は、フラグをへし折って、静穏無事な冒険を満喫する。
力強く頷きながら、ナビ子の言を、スルーする事にした。




