表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天翔雲流  作者: NOISE
深い森の中で
33/1794

いい加減、転生者やろうよ!

 厄介事と冒険は、似て非なるものである。

 勇者なるものは、その違いを理解していない面がある。

 そして俺は、勇者なる大業な存在では無い。

 ただ、そこにあり、その日を生きる。

 無情な世界を、渡り歩き。

 時には、人助けもするだろう……。

 けれど、決して、勇者なるものでは無い。

 自由に笑い、自由に泣く……。

 今を生きると言う事は、そう言う事だ。



「サクヤ~。お腹空いたな~」

 俺は、明後日の方向を向き、爽やかな笑顔で、サクヤに語り掛ける。

 サクヤも、何かを察したのか、お腹をさすり、こくりと頷く。

『神様の、事情は、よう解らんよ』

 余計な事を言うな、サクヤよ……。

 涙目の、ナビ子の顔が浮かぶ。

『ちょ、ちょっと~。二人とも~』

 ほら、やっぱり来た……。

 日は高く上り、正午に差し掛かる。

 腹が減っているのも、本当だ……。

 何時しか、ゴブリンに着けた炎も沈下しており、飯の種を探したいと思う気持ちがある。

 しかし、燃えてからは、早かった。

 ゴブリンは、あまり、脂肪分が無かったのだろうか……?

 数刻もたたず、火の手は弱まった。

 これなら、ほっといても大丈夫だろう。

 それより、問題は……。

 ナビ子には、悪気は無いのだろうが、神様の事情に付き合うほど、俺も出来た人間じゃない。

『だって、だって、ジャショウちゃん、せっかく転生したのに、自分のキャラ設定生かしきれてないじゃない……。向こうの、知識生かして、変わったアイテム作るわけでもないしさぁ……』

 この女神、人のキャラ設定に、ダメ出し始めたよ……。

 大体、記憶を失っている俺に、何を求めているんだ?

 そもそも俺は、戦う事しか脳が無い。

 俺はため息をつき、両手に目をやる。

 そう、俺には、戦う事しか出来ないのだ。

『なあ、ナビ子……。そもそも、おかしいと思わないのか?異世界転生のススメに出てくる転生者の多くは、ニート、学生、普通のサラリーマンとかなのに、特殊な調味料や、近代様式のアイテムを、ほいほい作り上げるが、それって無理があるよ……』

『う~~~』

『専門知識があったって、特殊な物が無い世界で、クオリティーの高い地球のアイテムを作るなんてさ……』

『そ、それは……。魔法とかで……?』

 何を言っているんだ?まったく……。

 例えば、俺からして、未来の飲み物、ビールにしたって、良い物を作るには、麦芽の条件として、穀粒の大きさ、形状が均一で大粒であること……。

 穀皮が薄いこととか……。

 その他にも、色々条件がある。

 そう言った条件を、見極める目も無いし、分類するにも、莫大な時間がかかる。ナンセンスすぎる……。

 車もそう、エンジンのピストン部分の、密閉性を再現するには、相当な、技量が必要だし。ガソリンと言うのも無い。魔法を代用するなら、エンジン部分は、モーターの置き換える方が、現実的か?

 どっちにしたって、知識も、技量も無い。

 異世界転生のススメの所為で、変な知識ばっかあるが……。

 気を取り直して、俺のいた?時代の技法なら、刀の製鉄か?

 しかし、そんなものは、鍛冶師では無かった俺にとっては、理解する事が出来ないし、再現する事は出来ない。

 そもそも、造ったところで、斬り結べるのは、数回だ。

 時代劇じゃ無いんだ。刀なんて数回で、刃こぼれするか、血油で、斬れなくなるのが関の山だ。

 そんなもの使うなら、創気で造った刀を利用する。

 俺は肩をすくめ、首を横に振る。

『ナビ子ちゃん。あんま、わがまま言うもんじゃ無いんよ?』

 見かねたサクヤが、ナビ子を諭そうとする。

『でも、でも~~』

『なら、最近はやりの、魔力やお金で、地球の商品を取り寄せる、チートスキルとか無いのか?』

『うっ……。な、い……』

 なんだ、今の間は?

 さっきからこの女神、言葉を濁してばっかだ。

 概ね、頼りになるんだが、何分、夢を追いすぎる。

 俺に何をさせたいんだ?

『本当は?』

『出来ない事は……ない』

『だったら……』

『でも、でも。他の世界の物を、ホイホイと持ち込んでしまったら、世界バランスが、崩れてしまうわ』

 言ってることが、めちゃくちゃだ……。

 さっきから支離滅裂。あちらの世界の物が欲しいのか、欲しくないのか、訳が分からん。

『あっちの世界の物を、こちらに転移させたくないのに、なんで作り出したいの?』

『だ~か~ら……。あちらの技術を応用して、文明を発展させるのは良いけど、直接、転移するのはまずいのよ……』

『物質の、構造が違うから?』

『うん……』

 異質……。

 やはり、道理が違う。

 在るべき物は、在るべき場所に……。

 物事は、都合よくいかない訳だ。

『あちらの世界の食べ物は、栄養価が高すぎるし、マナが殆んど無いし……。こちらの人間が食べれば、毒にだって為り得るわ』

 全てが異質で、生命の循環もまま為らない。

『道具もそう……。物に宿る、個体エネルギーが高いから、アーチファクトになっちゃうの……』

『けど、俺には、物作りなど出来ないぞ?』

 俺は頬を掻きながら、核心を突く。

 何度も言うが、俺には、戦う事しか脳が無い。

 知っている事と言えば、人体の急所と、敵を仕留める技ぐらいなものだ。

 チートスキルも、特に無し……。

 手に汗握る、心理戦も出来なけりゃ。特殊なスキルで、トリッキーな戦闘も出来ない。

 ただ、力に任せて、暴れ回るぐらいの事だ。

 それなのに……。

 そんな俺に……。

『うん。だから、魔王退治しよ♪』

『なにそれ、怖い……』

 何、軽いノリで言ってんだコイツ……。

 一瞬、ナビ子が、神様だって言うこと忘れて、毒を吐く処だったじゃないか。

『冒険するにも、目的があった方が良いじゃない♪』

『そんな目的、いらない』

 別にメンドクサイ訳では無い……。

 断じて、メンドクサイ訳では無い……。

 強い奴と戦えることは、むしろ、ウエルカムだ……。

 が、神様の尻拭いと言うのは、頂けない。

 ……。

 ごめん。うそ。正直メンドイ……。

 一人ならともかく、まるでバーゲンセールみたいに多くいる魔王を、一匹ずつ駆逐するなど、メンドクサイ事このうえない……。

『ふふふ……。奴は魔王の中でも、最弱』とか言って、わらわら出てくんだろう?きっと。

 そもそも強さだって、この世界が、平穏な処を見ると、それほどでも無いのだろう……。

 まあ、未だ、森から出ていないのだが。

 と言うか、人間にも会っていないのだが……。

 少なくとも、世界樹の周りは、平穏無事だ。

 俺は、フラグをへし折って、静穏無事な冒険を満喫する。

 力強く頷きながら、ナビ子の言を、スルーする事にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ