幸福に包まれて……。
思い出とは、実に曖昧なものだ。
苦しみは、色濃く。美しい記憶は、色鮮やかに残る。
美しく彩られた記憶は、人を蝕み。時に、人の進退を停滞させる。
憎しみは、心を歪め、文字通り、人を殺す事となる。
思い出とは残酷で、儚いものだと思いながらも、それに縋るのが、人の業なのだろう。
『そっか……。やっぱ、少し話さないとね』
しんみりとした面持ちで、語り始めるナビ子……。
集めたゴブリンの死体に、火を灯す。
炎は、ゆっくりと燃え広がり、肉の焼かれる嫌な臭いがする。
『ジャショウちゃんが、こっちに来たのは、西暦1500年頃。でも今は、20××年』
『20××年?それじゃあ、俺は500年間どうしていたんだ?』
俺は、小首を傾げ、ナビ子に話に耳を傾ける。
『ジャショウちゃんは、500年間、眠っていたのよ。ただ、その間も、異世界転生のススメは、更新されていたのね……』
500年眠っていた……?
異世界転生の話では、そんなラグは、聞いたことが無い。
『なぜに?』
俺は、不思議に思い、ナビ子に聞き返す。
『ジャショウちゃんの居た世界と、この世界は、世界の構築体系が、違いすぎるのよ』
『そっか……』
『あら、物分かりが良いのね?』
『ん~。なんかこんなやり取りしたような気がする』
『記憶は失われていても、魂は記録しているのね……』
ナビ子は、妙に納得し、うんうんと頷いている。
まあ、理解した訳では無いが、何故か、妙に納得した。
別に、話を蒸し返すのが、メンドクサイ訳では無い……。
本当だぞ?
まあ、何にしても、今言える事は、構造の違う物に、異物は、本来入り込めないと言う事だ。
それは、精密であれば、あるほど……。
『俺以外も、転生した人いるん?』
『いるわよ♪私、今言う歴女だもん。ジャショウちゃんのいた時代に、すごく魅せられたから……』
『さらったのか?』
弾んだ声で、語りだすナビ子に、眉を顰め、問いただす。
『失礼ねえ。さらったりなんかしないわよ。ジャショウちゃんのいた所は、異彩を放つ人達が多くいたの……。だけど神の手を離れた世界では、強すぎる光。強い光は、他人を。ううん、自分すらも傷つけてしまう』
鬼子……。
不意に、俺の頭をよぎる。
恐れ、下げすむ人々の目。
呪いの言葉を投げかける、人々……。
嫌悪で、身を震わせる。
まるで、暗闇の中を歩くような、不安。
しかし、暗闇の先に、光明が見える。
初老の男性の笑顔……。
ゆっくりと俺に、手を差し伸べる。
「お館様……?」
一滴の涙が、頬を伝う。
眼前に広がる世界……。
笑いあう人々。
優しく強い手で、俺の背を叩く男達。
俺に、手を振る女達。
〈HP→23000〉
〈錬気→342200〉
〈筋力→3660〉
〈体力→3100〉
〈器用→1620〉
〈頑強→2400〉
〈敏捷→3120〉
〈反応→3350〉
〈精神→2200〉
〈気配察知→6〉
〈武術の心得→7〉
〈限界突破→4〉
〈格闘→10〉
〈威圧→6〉
暖かな記憶に、心が締め付けられる。
記憶をたどる最中、身体が軽くなっていくのが感じられた。
暖かな光……。
目を覆いたくなる様な光り。
幸福とは何か……?
誰かが言う。幸福とは、過去を振り返って、初めて知る事の出来るものだと。
幸福の中にいる人間は本当に、幸福に気付く事が出来ないのだろうか……?
今、俺は幸せだ……。
過去の幸福を、失って得たモノの大きさ……。
俺は今、押しつぶされそうな幸福に抱かれて、幸福を知った……。




