知識と記憶
戦いの後に残るものは何か……?
勝者の歓声か?
敗者の苦悩か?
答えは、無常だ……。
スポーツであれば、それで良い……。
しかし、命のやり取りの中で残るモノは、そんな美しいものでは無い……。
敗者には、死を……。
勝者には、荒廃した現実を、突き付けられる。
戦いとは、ただただ、無情なものなんだ。
兵は国の大事。
百戦百勝するは、善の善に非ず。
守らざる所を攻め、攻めざる所を守る。
今、俺は、全てを無視して、欲望のままに、その牙を突き立てている。
勝者の、高揚感に浸り。敗者の屍の上に立っている。
弱者の心を砕き、その命を奪う。
例えるなら、俺は、悪に為るのだろうか?
『初ミッション、クリアーおめでとう♪』
ナビ子の明るい声が、頭に響く。
戦闘後の残身の最中、ナビ子の声は、なんかくるものがある……。
戦闘の最中の喧騒は、まるで嘘の様に、辺りは静まり返り、そんな最中でも、ナビ子は興奮し、しゃべり続けてくる。
俺とサクヤは苦笑交じりで、相槌をうちつつ、ゴブリンの耳と、硬貨の入っている袋を取って回り、ゴブリンの死体を、一か所に集めていった。
『ね~え~。聞いてる?』
間延びした、声を上げるナビ子。
俺とサクヤは作業を終え、一息つき、空を見上げる。
日は、高く上がり、もうすぐ正午と言ったところか。
小腹も空き始めた。ふと横を見ると、サクヤも、お腹をさすっている。
「サクヤ。お腹空いて来たね」
サクヤは、照れ臭そうに笑い、小さく頷く。
「あとちょっと、この死体の処理をしたら、昼食になるものを探そうか」
『そう言えば、ジャショウちゃん。なんでゴブリンの死体集めているの?』
『いや……。死体を放置すると、死霊になるって、異世界転生のススメにのっているぞ?まさか、これもガセか……?』
『あ~うん。なるねぇ……』
なんとも、曖昧な返事だ……。
『もしかして、ならないの?』
『いや、恨み持った者の魂は、瘴気を呼び寄せ、死霊に変わるわ』
『だったら……』
『いや~。珍しく、的を射た回答が返ってきたから……』
『おい』
珍しくとはなんだ……。
そもそも、異世界転生のススメとか言う、訳の分からない知識を俺に植え付けたのが、いけないのだろう……。
そう思いつつも、ゴブリンの死体を積み上げる。
『時に、一つ気になっていたんだが……』
『な~に~?』
『異世界転生のススメの事なんだが……。転生元の世界、俺の知っている世界と、違う様な気がするのだが?』
異世界転生のススメに載っている、転生するきっかけになった現象……。
トラックに轢かれそうになった少女を助けて、代わりに死ぬ……。
ネトゲ中に、異世界転生……。
学校や家で、突然、魔法陣が現れ、転生する。ETC ……。
どれも光景が鮮明に、記録されているが。たまに思い出す、俺の記憶には無い物ばかりだ。
『ジャショウちゃん。記憶戻ったの?』
『いんや……。知識として有るものと、記憶として有るものの、違いぐらいは、なんとなく分かる……』
物思いにふけり、記憶を呼び起こす。
トラック、学校、コンクリートの家々、見たことは無いが、それがどんなものであるのか、鮮明に脳裏に映し出される。
ジャージ、ブレザー、スーツ、学ラン……。
着たことは無いが、その特徴は分かる。
外国語、和製英語、聞いたことは無いが、それらの意味を理解し、使う事も出来る。
まるで、浦島太郎になった様に、虚空が胸を締め付ける。
俺の居た世界。
やっぱ、大切な人達が居たのだろうか?
遥か遠くで、思い寄せたものは、今は無く。霞がかった虚像に、ただ思いを馳せ、空を見上げた。




