勝敗の行方……。
美しき戦闘など、神話の世界にしかない。
戦いとは、案外単調で、弓や飛礫。遠距離での戦闘が主で、激突して、斬り結ぶ事は案外少ない。
飛び散った肉片を前に、ただ、自らの無力を感じ……。
いや。感じる時を得た者など少数で、ただただ、苦痛と恐怖の中で、死んで逝く。
戦いとは、無情なものなのだ……。
俺は、創気で作った刀を収め、拳を握る。ここからは、本領である格闘術で、叩き潰す!
風をつぐむ様に、腕を這わせ、構えをとる。
構えと言っても、一般の武術のそれとは違い。両手を自然に前に突き出し、膝を軽く曲げ、重心をすぐ動けるように、両つま先に置くスタイルだ。
これは試合では無い、死合だ……!
ただ、相手に一本入れれば良い訳では無い。
いかに、確実に、相手を倒し、殺すかに重点が置かれる。
そのためには、あらゆる状況に対処し、対応していかなくては成らない。
相手の目を見。それから、全体を見る。
相手の目線。筋肉の動き。気の流れ。全ての情報が、次の一手の決め手となる。
孫子の兵法。
兵法が導くものは、何も、戦略だけではない。
政略。戦略。戦術。個の戦い……。
いかに情報を集め、それを分析するかを、説いている。
今分かることは、敵は恐慌状態にあり、ゴブリンナイトはそれとは裏腹に、慢心している事だ。
俺が、矮小に見え、今置かれている状況を、理解しようとしていないと言う事だ。
笑える話だ……。
これだけ仲間が殺され、逃げ道すら無いのに……。
背水の陣?
馬鹿が……。
そんなのが通用するのは、切迫した戦況のみだ。
最早、数は意味をなさない。
それを、撥ね退ける力が有ると?
答えは、NOだ。
悪いが、あんたの力量は、鑑定済み。所詮、ゴブリンに毛が生えた程度だ。
奥の手があるか?
それも、怪しいものだ。
多くの仲間を殺された今、切り札と呼べるカードをきるには、遅すぎる。
まあ、良い……。後は、斬り結んで、情報を引き出すとしよう。
ゆっくりと歩み始め、段々と加速する。
風は、ゴブリン達の流した血の臭いを運び、それを感じ取り、自然と高揚感を覚える。
今の俺の顔を見たやつは、皆一様に、恐怖を覚えるだろう。わずかな微笑を湛え、その瞳からは、殺意が窺える。
圧倒的な暴……。
怯えすくむ、ゴブリンの心の臓を、手刀で貫く。
返り血もかからぬ速さで、次の獲物を狙う。
肩に乗せた、サクヤを気にし、その動きに緩急を入れる。
その場の狂気と、俺の動きに翻弄されたゴブリン達は、身を寄せ合い、必死に剣を振り回す。
俺は、そんなゴブリン達を嘲笑し、間合いを詰めていく。
これじゃあ、どっちが悪だか分かったもんじゃ無い……。
まあ、殺し合いに、正義だの悪だの言ってる奴は、ただの阿呆だ……。
生存競争に、正当性を求めちゃならない。
そんな事より、宴のクライマックスだ。
さあ、一匹ずつ丁寧に、料理してやろうじゃないか……。
爛々とした瞳で笑い、間合いを詰め、切り結ぶ。
拳は内臓をえぐり、蹴りは、まるで鋭利な刃物の様に、ゴブリンを寸断していく。
周りに飾れていた、数多の人や、動物達の首は、まるで俺の所業に、歓喜するかのように、微笑を浮かべているようだ……。
気付けば、ゴブリン達は、物言わぬ骸に成り果て、残るは、ゴブリンナイトただ一匹。
砂塵が、俺とゴブリンナイトの間を、吹き抜ける。
正面から叩くか、側面を捉えるか……。
前面に、タワーシールドを構え、まるで挑発する様に、剣を掲げている。
未だ、ゴブリンナイトは、自分の置かれている状況が分かっていないのだろうか……?
「決めた……」
俺の微笑は、凶悪な笑みに変わり、ゴブリンナイトへと、一直線に突き進む。
ゴブリンナイトは、しめたとばかりに、不敵な笑みを浮かべ、盾を前面に構えた。
やっぱり、馬鹿だ……。
そんな盾が、俺の拳を防ぐ事が出来ると思っているのか?
目の前で、多くの同胞を殺されなお、俺との戦力差を、理解できないとは……。
獣以下だ。
苦笑と共に、盾めがけて、拳を振るう。
拳は音速を超え、鞭の様に乾いた音が鳴り響く。
パァン!
音速を超えた拳は、盾を突き破り、ゴブリンナイトの腕をがっちり握る。
「つ~かまえた♪」
途端に、恐怖に呑まれ、奇声を発するゴブリンナイト。
何もかも、今更なんだよ……。
相手の力量も分からず、守りに回った事が、敗因だな。
他のゴブリンの様に、命がけで死地より、生を求めなくっちゃ……。
観にまわるにしても、俺とあんたじゃ、力量に差が有りすぎるんだよ。
その力量が測れない事が、ゴブリンナイト、お前の限界だ……。
俺は、ゴブリンナイトを、力任せに地面へと叩き伏せる。
「グゲッ」
地面に叩きつけられた衝撃で、息が出来ないのであろう、その場でもがき苦しむ。
俺は、そのまま冷笑を浮かべ、喉元に掌打を打ち込み、首を鷲掴みにする。
まあ、ここら辺が、宴の締めと言った処か。
俺は、溜息と共に、力任せにその首をへし折り、無造作に死体を投げ捨てた。
結局最後は、呆気無いものに成ってしまったな……。
能面の様な、張り付いた微笑を浮かべ、空を見上げる。
ああ、何も感じない……。
勝利の余韻も、敗者への罪悪感も……。
きっとこれが、俺なんだろうな……。




