名乗りと言ったら、やっぱこれだろう?
戦いに赴く高揚感。
アドレナリンが分泌され、恐怖と言った負の感情が、薄らいでいく……。
しかし、本当の戦士と言うものは、この状態に呑まれず、冷静な判断が求められる。
そう、俺は戦士だ。殺戮者では無い。
これから行う事は、殺戮では無く、必要な物資を得る為の、軍事的手段に過ぎない。
いや……。
これは、ただ、狂気に呑まれんとする、自分への言い訳なのだろうか……。
索敵では、赤い目印が、無数に点在している。
十や二十では無いな、これ……。
それでも俺は、一切の躊躇いも無く、ゴブリン達の居る広場へと、突き進んでいく。
呼吸を整え、眼前を見据える。
自然と四肢に力が入り、闘気が立ち昇る。
いかん、いかん。体の力は抜いて、自然体で。
相手はゴブリン……。
いや、敵が誰であろうと、心に余裕を、そして、慢心せずに臨機応変に事に当たれ。
ひと呼吸入れて、茂みから飛び出す。
「やあやあ、我こそは、近くば寄って目にもの見よ!人の子にして、人知を超えし者なり。我が名は、ジャショウ。戦いの意思有る者は、前に出よ!」
きまった……。俺は、一人満足し、鼻で笑う。
『いや、ジャショウちゃん……。なんかダサかったから……。やあやあって何よ……』
えっ!?だめ?
名乗りと言ったら、やっぱこれだろう?
戦初めの、両武将の一騎打ちの名乗り。
俺、昔から憧れてたんだ。
しかし、これがダサいとは……。
あれか?決めポーズが、無かったからか?
弓を構えて、一本足で立つとか……?
ナビ子の突っ込みに、少し凹み、その場で膝を抱え、いじけて見せる。
仕方が無いじゃないか。口上なんて、知らんし……。
俺が居た時代、これが普通だし……。
異世界転生のススメにも、あまり、名乗り口上を上げる人、居らんし……。
じゃあ、やるなって……?
ノリだよ、ノリ……。
突然の事に、ゴブリン達は、呆気にとられ、呆けた顔で、こちらを窺う。
おっ!?これはあれか?ゴブリンに転生した人とか居るん?
ゴブリンからの、下剋上……。
結構、面白い話多いよね。
しかし、そんな願いもむなしく、一匹が我に返り、奇声を発する。
それにならい、周りのゴブリン達も、剣や棍棒を持ち、一斉に立ち上がった。
どうやら、ゴブリン達は、殺る気の様だ。
俺は、気怠そうに立ち上がり、ゴブリンを見据える。
先ほどまで、ゴブリン達が囲っていた焚火には、ユキザルの死体があった。
『あいつら、アタイの仲間を……』
サクヤは、嫌悪で声を震わせ、ユキザルの死体を指さす。
弱肉強食……。その言葉で済ます事は出来る。しかし、人と言う生き物は、ままならない。同族や、それに属した者の、死を見れば、怒りがこみ上げる。
ユキザルの死体に目をやる。そこには、無数の傷跡があり、散々、弄んだことが窺える。
怒りが頂点に達する。
「死にたいか!!」
〈威圧LV3習得〉
脳内に、アナウンスが鳴り響く。そんなことは気にも留めず、ゴブリンににじり寄る。
ゴブリン達は、俺の気迫に気圧され、後ずさりする。
両手に創気で、刀を作る。
跳躍。
最初に、武器を取ったゴブリンめがけて、駆けあがる!
武器を持ったが未だ、戦闘態勢をとれずにいるゴブリン達は、先ほどの威勢はどこへやら、顔を引きつらせ、縮こまっている。
一閃。
刀は、ゴブリンの胴を捉え、横一線に、切断する。
「ありがたく思えよ。俺は、嬲ったりしないからさ……。死した事にも気づかず、逝っちまえよ」
静かな微笑を湛え、戦闘の幕が切って落とされた。




