力有る故に……。
侵略する事火の如し……。
孫子の理に当てはめれば、情報収集は終わった。ここからは、攻めの時だ。
敵には、気取られていない。今攻めれば、バックアタックは成功するだろう。
あとは、如何に他のゴブリンに、気取られないかだ。
『ジャショウちゃん、昨日の調子で暴れたら、他の奴らに、ばれちゃうよ?』
ナビ子に言われ、昨日の事を思い起こす。
繰り出した拳からは、衝撃波が飛び、木々を薙ぎ払い、大地を削ってしまう。
駄目だ……。
今のまま攻め入っても、目の前の敵は倒せても、他のゴブリンに気取られ、乱戦になるか、悪くて、逃げられてしまう。それだけは避けたい。
『無意識で、剛気を発動させるから……』
『無意識だからなぁ……』
通り過ぎて行くゴブリンを見ながら、考え込む。
そもそも、剛気で肉体強化せずとも、尋常ならざる力が有る。
どう、対処するべきか?
剛気を意識して発動させてみる。体は羽のように軽くなり、全身に力がみなぎる。
便利ではあるが、コントロールがうまく行かない。
しばらく考え、はたと思い付く。
もしかしたら……。
『何か思いついたの?』
薄ら笑みを浮かべ、瞑想を始めた俺に、ナビ子が怪訝そうに話しかける。
『逆が、出来ないかってね……』
俺はナビ子のそう言うと、全身に、鉛の塊を身に着けるイメージをする。
両手両足に、100kずつの、気の重しを付ける。この場合、創気ではなく剛気でおこなう。
創気で、発動してもいいが、剛気の方が、内側から重みが加わり、効率が良い。
『なるほどね。それなら鍛錬にもなって、剛気の訓練にもなると』
まさに一石二鳥。いや、ゴブリンも倒せて、三鳥か……。
両手に創気で、刃を創る。
格闘戦術の方が、俺にとって能率が良いのだが、今は、創気のレベルを上げたい。
何の装備も無い今の状態では、創気で作る刃は、勝手が効く。
獣の解体。木工の作業道具。全てが、創気で作った刃だ。
『おお、一気に、創気の訓練もすると』
ナビ子が、感心しながら頷いているのが、目に浮かぶ。
『せっかくだから、色々試してみたいしね』
初戦闘だ。クールに決める!
俺は、重りで鈍くなった体の感覚を試す様に、四肢を動かし、試す様に刀を振るう。
うん、問題は無い。
四肢への負担は、体全体を酷使するが、それがまた心地よい。
言っておくが、俺はマゾでは無いぞ?
再び眼前を見据え、深呼吸をする。
覚悟は出来た……。
高ぶる感情を押し殺す。
最早、迷いは無い。気配を消しながら、茂みから飛び出した。




