さて、冒険を始めるか!
早朝、サクヤに揺らされ、目を覚ます。
眠い眼を擦り、辺りを見渡す。
空は朝焼けで、紅黄色に染まり、一日の始まりを知らせている。
ナビ子は既に居らず、辺りは霞がかっていた。
「ナビ子……?」
俺は確認する様に、ナビ子を呼んでみる。
返事は返ってこず、自分の声が木霊する。
俺は、不安に駆られ、空を見上げる。
『居らんよ?あの姉ちゃんな。昨日、消えてしもうた……』
サクヤは、俺の頭を撫でて、慰めようとしてくれた。
俺は目を閉じ、固く誓う。
『ナビ子……。お前の分もこの世界で、立派に生きて見せるからな……』
『いやいや。私、居るから!』
突然、ナビ子の声が頭に響く。
俺は驚き、辺りを見回す。
『ナビ子?』
『そだよ~。ナビ子ちゃんだよ♪』
何時も通りの、おちゃらけたナビ子の声が、頭に木霊する。
『返事が無かったから、てっきり……』
『いやいや。神様、死なんし……』
『返事が無かったから……』
『昨日実体化したから、少し疲れていたのよ』
俺は少し安心し、ため息をつく。
心配そうにこちらを窺う、サクヤの頭を撫で、ナビ子の無事を教えてやる。
『そうか~。姉ちゃん無事か~』
サクヤは嬉しそうに、目を細めて笑う。
グ~。
不意に、サクヤの腹の虫が鳴く。
サクヤは恥ずかしそうに、お腹をさすり、上目遣いで、こちらを窺う。
『あんなぁ、アタイ、お腹すいてん……』
グ~。
続けて、俺の腹の虫も無く。
「確かに……」
俺は、おもむろに、懐からアヤの実を取り出す。
今日の朝食も、木の実か……。
動物性タンパク質が欲しい処だ……。
『アヤの実か~。アタイなぁ、仲間に入れてもらえんかったから、何時も、みんなの残りかす食べておったんよ』
そう言うサクヤに、アヤの実をまるまる与えてやる。
サクヤは両手で抱え、どこから食べようか、思案しているようだ。
俺は、もう一つ取り出し、かぶりつく。そんな俺の姿を見て、サクヤも、恐る恐るかぶりつく。
一日たったアヤの実は、熟して、とても甘かった。
俺とサクヤは、顔を見合わせ、にっこり笑う。
『なあ、ナビ子。人里に行こうと思ったが、金がない……』
俺は、アヤの実を食べながら、ナビ子に声をかける。
『大丈夫!モンスターを狩ればいいのよ♪しかも、最弱モンスター、ゴブリンを!』
ゴブリン……。
異世界転生のススメにも出てきている。
冒険の最初によく現れる、緑色の亜人だ。
ちなみに、スライムと言うやつは、一見弱そうだが、実は強いらしい。
そして、エロイ!
俺は、そんなどうでも良い豆知識を思い浮かべ、小首を傾げる。
『モンスター狩っても、冒険者じゃ無いから、お金に換えられないよ?』
『ちっちっち。甘いよ、ジャショウ君!なんとゴブリンは、人を狩った証に、お金を集めるのだ。ちなみに首は、根城の前に飾る悪趣味さ』
後の方は、どうでも良い情報だ……。
俺は、アヤの実を食べ終え、べたつく手を、服で拭い、立ち上がる。
横で、必死にアヤの実にかぶりついていたサクヤが、慌て、俺に肩に飛び乗る。
「大丈夫。まだゆっくり食べてて平気だよ」
サクヤは頷き、器用にアヤの実を回しながら、頬張っている。
どうでも良いが、サクヤのかじるアヤの実の汁が、肩に垂れて、こそばゆい。
俺は気を取り直し、千里眼を使い、遠方を見渡す事にする。
『ジャショウちゃん。ここら辺は、世界樹の子の影響で、妖魔は近づけないわ』
ナビ子のくれる情報に、なんとなく納得する。
昨夜も、世界樹の子の周りに居たのは、純粋な獣達だけだった。
昨日の事を思い起こし、静かに頷く。
さて、気を取り直して、前方を見渡す。ゴブリンは、火を使うだろうか?遥か遠方で、白い煙が立ち上るのが、幾つか見えた。
『煙が見える……』
『う~ん……。冒険者か、ゴブリンか……』
曖昧な返事が返ってくる。しかし、その回答からしてゴブリンも、火を使うようだ。
サクヤの方に目を向ける。
丁度、食事が終わったようで、お腹をさすっている。
「もう、大丈夫?」
『アタイ、お腹パンパン♪』
満足そうに目を細め、返事が返ってくる。
「じゃあ、行くか!」
俺は、肩に乗っているサクヤと、ナビ子に声をかける。
サクヤは頷き、ナビ子からは、元気な掛け声が返ってきた。
懐には、ユサの実が数個、何房かの、薬草が入っている。食料も欲しい所だ。
一番近い煙まで5k弱、千里眼で詳細が見えるのは、2kまで。煙の出どころの詳細は、解らない。とにかく行ってみるしかないようだ。
一日が終わり、新たな一日を迎える。
こうやって、当たり前の事の様に、日々が積み重なっていくのだろう。
今はこの一日が、どうか長く続くようにと、願うばかりだ。




