純白
再び、スターリーの街から、多くの民が、エネスの街に逃れて来た。
今回の事件で、ほどほど、貴族に、愛想を尽かせたのだろう。
一応は、マルスさん達衛兵に、厳重な、警備と審査を、行ってもらっているが……。
万が一にも、今回の事件の遺族が、復讐を企て、紛れ込まぬ様に。
取り敢えず、今のところは、問題無さそうだ。
しかし、立ち直ったスターリーが、再び、傾き始めている。
民達とて、馬鹿では無い!
考える頭がある。
突き動かされる、心がある。
一度、疑念が生まれれば。理想とする世界が在るとすれば。そこへと、逃げてゆくだろう。
そこが、エネスの街だ。
そして、エネスの街に来て、確信する。
こここそが、理想郷……!
一人の民が謳えば、百の民が、その後に続く。
最早、しばらくの間は、歯止めが効かぬだろう。
アルブレッドから、今の、スターリーの惨状を嘆く、手紙が届いた。
ヨセフは、自分の弱さを恥じ。鬼へと変わったと言う。
罷免で済ませていた貴族を、追い詰め。少しでも、反抗すれば、誅殺する。
スターリーの街では、本当の、粛清の嵐が、吹き荒れているとの事。
アルブレッドも、嫌気がさし。早く、エネスの街で、余生を暮らしたいと。
遂に、スターリーの街も、限界を迎えた様だ。
王族の、霊廟を守る、アルブレッドですら、根を上げているのだから。
この、粛清が終わった後、スターリーには、何が残るか……?
三千人の命の対価に、何人、何十人、何百人の、貴族とその家族が、殺される事と成るか……?
民達を、踏み止まらせ。民達に、納得してもらうには、多くの血が必要だ。
最早、形だけの粛清では無く。身を切り、骨を断ち、その血を流さぬ事には、生まれ変わる事は出来ない!
スターリーの、混迷は、まだまだ、続くだろう。
その間も、エネスの街は、大きく発展する。
そして、人々は、届かぬ光に、身を焦がす事と成ろう……。
全ては、ヨセフの悪手だ。
前にも言ったが、スターリーの街が、多くを望めば、必ず、破綻する。
ヨセフも、アルブレッドを始めとする、賢臣達も、それは、よく理解していた。
しかし、ヨセフの甘さよ……。
それが、理解出来ず、罷免された、佞臣達の力を、奪う事はしなかった。
過去の栄光を、慈しみ。今の愚者に、恩情を与えてしまった……。
これは、優しさでも無く。甘さを超えて、愚かな行為だ。
今頃、ヨセフは、自らの愚かさに気付き、悶え、苦しんでいるだろう。
また、最後の一歩で、踏み外してしまった。
この血の粛清が、スターリーの未来を、繋ぎ止めてくれれば良いが……。
望まなくとも、俺は、人々の、希望と成ってしまう。
ヨセフよ……。
今は、自らの愚かさを恥じ、悶え苦しめ。
悶え苦しみ、乗り越えろ。
三千の命の重さは、計り知れぬぞ。
俺もまた、何千、何万、何億の血を浴び、今の地位に居る。
お前は、一滴の血が目立つほど、綺麗過ぎたのだよ。
王の玉座は、決して、美しくない。
血まみれた、不浄の椅子よ……。
ヨセフよ……。
その椅子に座る、覚悟を見せよ……。




