異形の虎
ヨセフは、優しすぎる。そして、甘すぎるのだ。
言葉は悪いが、ヨセフは、さっきも言ったが、愚かな貴族の讒言を聞き、俺達を、着の身着のまま、スターリーの街から、追い出したのだ。
ヨセフに、そんなつもりは無かったが……。
貴族の言も、もっともらしく。ここは、心を鬼にして、財を蓄え、スターリーを、混乱させたエネス地区に、援助は、一切不要。それよりも、今回の件で、被害を被った、他地区に、援助をするべきだと、進言したのだ。
故に、俺達は、自力で、エネスの街を、立ち上げる事と成った。
最早、国の力は、一切、使われていない。
故に、ほぼ、独立した状況に有る。
そして、我が領土であるが故に、何人の、干渉も許さない。
スターリーの中に出来た、もう一つの国、エネス!
何度も言うが、最早、貴族達が、干渉する事は出来ないのだ。
民達の為に出来た、理想郷……!
さて、エネスは、邪魔な貴族を廃し、折角、自由に成ったのだ。自由にやらせてもらおうか。
徳有、才有る者は、身分問わず、我が下で、その力を、発揮せよ……!
俺は、最後の一線を、踏み越える事とした。
平民達から、為政者を生み出す。
ゆくゆくは、エネスの街を、五地区に分け。テッカを頂きに、テッカ達に、管理してもらうが。その為の、下準備だ。
一部の為政者を除いて、貴族と言う存在は、エネスの街には不要!
民達は、エネスの街を、理想郷と謡い、スターリーの街を離れて、多く移住し続けている。
廃れてゆく、スターリーの街……。
それと反比例し、エネスの街は、巨大化する。
実に呆気なく、張り合いも無い。
貴族達は、失策に次ぐ失策で、もう、虫の息だ。
今更、エネスの街に、投資したいと、擦り寄って来たが、話にならない。
俺は、冷めた目で、
「貴方達の、言った事であろう?エネスの街は、十分、自力で、運営出来る!そんな事より、前回の失態で、困窮した、スターリーの街の各地区に、援助をしたら良いだろう?私達には、貴方方は、不要だ!」
貴族達は、力無く、去って行く。
邪魔者は、必要無い!
ヨセフが、ガッツ達を、切って捨てた様に。俺もまた、貴様達を、切って捨てるまでよ……!
「ジャショウ君!スターリーを、滅ぼすつもりですか!?」
「何だ?ヨシカ……。急に来たかと思えば、藪から棒に……。俺達は、着の身着のまま、スターリーの街から、追い出されたのだ!今はまだ、その日を生きる事に、必死なのだ。スターリーはスターリーで、手元に残した、大切な貴族様達で、頑張れば良いだろう?」
「ジャショウ君!もう十分だろう?スターリーの街は、既に、死に体だ。これで、溜飲を下げてくれないだろうか?このままでは、本当に、貴族社会は、崩壊してしまう!」
「はぁ……。ヨシカ……。俺達を、捨てたのは、その貴族達だ!君こそ、俺達に、死ねと言うのか?ヨセフにも言ったが、既に、賽は投げられたのだ!俺達は、ただ、突き進むしか無いのだよ!何故、俺達が、スターリーの街から、追い出された時。君やヨーレスは、助けてくれなかったのだ?最後まで、愚かな、貴族達の言いなりに成り……。何もかもが、既に、遅いのだよ」
「くっ……。済まなかった……。謝って、済む事では無いと分かっている……。だが!頼む!我等を、見捨てないでくれ!虫の良い事だと、分かっている!しかし!あの一文だけは、容認する事は出来ない!せめて、それだけでも取り消し、然るべき為政者を、受け入れてくれ!」
「あの一文……?」
「ああ!徳有、才有る者は、身分問わず、我が下で力を発揮せよ!まだ、我が国にも、優秀な者達が居る!その者達を、受け入れてくれ!」
「はぁ……。断る!!ウィスター学園の者であれば、考えもするが……。貴族の息のかかった者を、エネスの街は、受け入れる事は無い!本当に、才有らば、エネスの街にでは無く、スターリーの街の再興に、尽力を尽くさせろ!今更、人も財も、援助されるつもりは無い!ヨシカよ。それは、焼け石に水だぞ?今更、その様なモノを、受け入れても、民達から、反感が生まれるだけだ。何もかもが、遅すぎるのだよ……」
「それは、そうだが……。ジャショウ君。憎しみだけでは、何も生まれないぞ?人は、許し合い、共に手を取り合う事で、大業を成す!君は、エネスで、何を成そうと言うのだ?」
「笑止!今更、貴族など、相手にしていない!俺の政に、憎しみは無いよ。ただ、ここで折れれば、ここまで付いて来た者達に、顔向けが出来ぬ!ただ、突き進むのみよ」
「どうあっても、思い直してくれぬと?」
「何度も言う!思い直す事など無い!民達の幸福の為なら、俺は、鬼にも成ろう」
「はぁ……。やはり、駄目か……」
ヨシカは、肩をすくめ、静かに笑う。
最初から、分かっていたのだろう?
ヨシカは、ソファーに、腰を下ろし、
「ジャショウ君……。この先、スターリーの中心は、エネスと成るだろう。その事は、もう諦めた。少し早いが、貴族達も、淘汰してゆこう。故に、スターリーの街は、スターリーの象徴として残し。私も、エネスの発展の為に、尽力を尽くす!これだけは、退く事が出来ない!私の事を、受け入れてくれるよね?」
「本当に良いのか……?ヨシカまで、スターリーの街を見限れば、本当に、スターリーの街は、廃れてしまうぞ?そして俺は、今居る者達以外、貴族を、決して、受け入れない!ヨシカは、それでも、構わぬのだな?」
「ああ、もう、覚悟は既に、出来ている。度重なる悪政……。と言えば、オーバーか?しかし、兄上とは違い、私も、ジャショウ君と同じく、愚かな貴族達に、見切りをつけた。スターリーの街から、去らせてもらうよ。勿論、本音を言えば、ジャショウ君を、一人にしてしまえば、本当の意味で、スターリーが、滅びてしまう!そうならない為に、私は、兄上の横では無く、君の横に立つと決めた。残念だが、兄上では、ジャショウ君には、敵わぬだろう。君が望まなくとも、このままでは、人々は、君を、王へと、押し上げてゆくだろう。それだけは、断じて、阻止する!君もまた、それを望まぬなら、受け入れてくれるよね?」
「はぁ……。確かに、それは、御免被るな。俺は、王に成る気は無い!為らば、ヨシカ・スターリー!エネスの街の為に、君の才を、存分に、使わせてもらうぞ?俺が、暴走しそうに成ったら、君が止めるのだ!頼りにしているよ?兄さん」
「やれやれ……。父上達も、とんでもない男を、私達の、弟にしたものだ。虎に翼を与えたのは、私達では無い!父上達だよ……。ジャショウ・シルフィール!出鱈目な大器を持つ、異形の虎よ。私は、それを、スターリーに繋ぐ、鎖と成ろう。ジャショウ君、覚悟する様に!私は、君を、ビシバシ、働かせますからね?」
「ははは……。お手柔らかに頼むよ。俺も、いい加減、楽がしたいんだ」
「そんな事を、許す訳が無いでしょう?さあ!エネスの街を、発展させますよ!」
やれやれ……。
人使いの荒い、兄さんだ……。
しかし、これで、エネスの街は、益々、勢いづくだろう。
スターリーの街の方は、どうなっちまうのかなぁ……?




