漁業組合
新、子羊の嘶き亭……。
何時もの席で、その男は、待っていた。
漁業組合組長、モルガン・フルート。
褐色肌の、筋骨隆々な男。
俺を見やると、深く、一礼する。
俺もまた、姿勢を正し、一礼する。
「モルガンさんですね?この度は、ご助力感謝いたします!私達と共に、この街を、発展させてゆきましょう」
「ジャショウ様……。頭を、お上げ下さい。我等にも、発言の場を与えて下さり、感謝致します。我等こそ、何か、出来る事は、ありますか?」
「そうですね……。突然、この様な事を、要求すると、どう思われるか、心配ですが……。海産物の取れる量は、海によって、左右されてしまいます。牛や豚の様に、魚や貝も、養殖したら、どうでしょうか?」
「養殖……?」
「ええ。巨大な網で、海の中に、柵を作り、魚や貝を、人工的に、繁殖させるのです。力強く、海を自由に泳ぐ魚達より、多少、脂肪が増えますが……。漁師の皆さんも、大きな不漁に、悩まされる事が、少なくなると思います!」
「……。面白い考えだ……。人工的に、繁殖させるか……。噂通り、ジャショウ様は、奇抜な案を、惜しげも無く、教えてくれるのですね」
「はあ……。私は、エネスに住まう者達が、幸福に生きてくれれば、それが、最良だと、思っていますから。それに、今の案も、私には、具体策がありません!今まで、海と魚と向き合った、モルガンさん達だからこそ、実現出来ると思い、言ったまでです!先ほども言いましたが、お願いします!私達と共に、エネスの街の為に、お知恵を、お貸し下さい!!」
モルガンは、俺の顔を、じっと見て、
「信じるに値するな……」
その場で、静かに立ち上がる。
「お前達!ジャショウ様のお気持ちは、理解出来たか?他の者達と、ただ、競うだけでは無く。共に助け合い、この街を、大きくする!俺は、ジャショウ様に、忠誠を誓うぞ!!」
モルガンの言葉に、後ろの席で、黙って飲んでいた、数人の男達が、勢いよく立ち上がる。
「俺も、ジャショウ様の下なら、頑張れる気がする!」
「養殖か!結構な、大仕事に成るぞ!!」
「それでも、やってやるさ!!」
モルガンは、男達の言葉に、大きく頷き、
「ジャショウ様!我等、漁業組合は、今日より、ジャショウ様の、お味方と成りましょう!共に、エネスの街を、発展させましょうぞ!!」
「あ、ああ……。よろしく頼む!それから、モルガンさんは、俺の事を、一々、様付で、呼ばないでくれよ。ジャショウで良い」
「うむ!ジャショウ殿!儂の事も、モルガンと、お呼び下され!」
「ああ!モルガン、頼りにしている!後ろの皆さんも!皆で、エネスの街を、発展させてゆきましょう!」
「がははは!エネスの街に、乾杯だ!!」
やれやれ……。
しおらしくしていたと思ったが、元気の良い、おっさん達だ。
子羊の嘶き亭の、あちらこちらで、乾杯の音頭が上がる。
まだまだ、これでも、子羊の嘶き亭は、小さすぎるな……。




