大きなうねりに呑まれて……!
「ジャショウ・シルフィール!エネス地区の領主と言う座を、然るべき人材に譲渡し、あなたは、あなたのやるべき事に、専念するべきだ!」
「あ?」
何だ、こいつ等は……?
これでも俺は、大公だぞ?
何、呼び捨てしてやがるんだ?
俺の周りの者達が、一瞬で、殺気立つ。
剣を抜き、
「貴様等!この方は、王弟閣下であり、今は、大公の地位に在らせられるのだぞ!!」
煌めく剣が、俺を呼び捨てした男達の首に、付きつけられる。
失言だったな。
男達は、慌て、
「た、大公、ジャショウ様!わ、我等の忠告を、どうか、お聞き下さい!!」
男達の首から、血が伝い、ゆっくりと、地面に零れ落ちる。
俺は、冷めた顔で、
「ふん……。辞められるのであれば、とうの昔に、辞めておるわ!俺を、退かせたくば、ヨセフ国王陛下達を、説き伏せて見せよ!」
「そ、それは……」
口ごもる男達。
無理な話か……。
ヨセフ達に追い払われ、ここに来たのだろう。
俺は、鼻で笑い、背を向ける。
男達は、屈辱に、顔を歪ませ、
「貴様は!貴様が!!親無しの、平民以下の分際で!!我等、崇高な身分の者達を、見下し、貶めて、必ず、天罰が下るぞ!!」
「ほう……。俺と、戦争がしたいのか?」
俺は、足を止め、振り向くと、男達の顔を、凶悪な笑みで、覗き込む。
殺してしまうか……?
いや、待てよ……。
丁度良いかもしれぬ。
この程度の者達だが、エネス地区の運営と言う雑務を、押し付けてしまうのもありか?
テッカ達が、ウィスター学園を、卒業した暁には、失脚させれば良いのだから!
そう考えれば、体の良い、駒では無いか!
男達の顔が、恐怖に歪むのとは反比例して、俺の口角が緩んでゆく。
震える男達を見ながら、俺は、凶悪な笑みを浮かべ、
「後悔するなよ?そして、最後まで、やり通せ!俺は、一切、助けないからな!」
グッパイ!社畜人生!
ウエルカム!冒険者!
さあて!
我が人生を、謳歌するか♪
一つ、エネス地区の、税金を上げない。
一つ、賄賂を要求しない。
一つ、今行っている改革は、継続して続ける。
一つ、毎月、ヨセフ国王陛下に、報告書を作成し、運営状況を、報告する。
一つ、これらの事を、一つでも破れば、重罪と科す。
まあ、他にも、細々と、制約されたが、めでたく、彼の男達が、エネス地区の領主代理として、収まる事と成った。
まあ、これで、俺の仕事は、随分と減る事と成ったな。
ヨセフ達やガッツ達は、ブチ切れているが……。
逆に、ハニバルは、大喜びだ。
さて、しばらくは、ゆっくりさせてもらうぞ。
まあ、エネス地区を除く、他地区の面倒は、引き続き、見る様だが……。
例の男達は、俺に向かって、親無しの、平民以下と罵った事が、スターリー中に広まり、大きな反感を買っている。
その上、遠回しに、シルフィール家に、危害を与えるとまで言ったのだ。手を貸してやる筋合いは無い!
ヨセフ、ヨシカ、ヨーレスの怒りは、凄まじく。例の男達が、結果を出さなければ、死罪とまで言っている。
特にヨセフは、怒りが尋常では無く。男達に、唾を吐きかけ、
「ジャショウ君は、我が弟だ!!誰が、何と言おうと、我が弟だ!それを侮辱し、結果が出せないと言うなら、君達にも、天罰が下るぞ!!」
そんな皮肉を言い、男達を、縮こまらせた。
ガッツ達も、怒り心頭。非協力的で、新領主達を、潰そうとしている。
やれやれ……。
これじゃあ、何か月、持つのだろうか?
これで、良かったのかもしれぬ。
先ほども言ったが、ガッツ達は、非協力的。
俺の負担軽減の為に、報告書のまとめの一切をやっていたが、全て、放棄した。
今は、事業に、集中している。
他の面々も、皆、同様だ。
これは、悲惨だぞ……。
エネス地区は、大きなうねりだ。
スターリーを発展させる、巨大なうねりだ。
ちょっとやそっとの力では、制御出来ない。
その上、彼等は、碌な経験をしていないからな。
たちまち、彼等は、書類の山に圧殺されて、悲鳴を上げている。
その上、俺は、ガッツ達の納める税金を、1エルたりとも、無駄に使っていない!
勿論、彼等の夢想した、収益など、有りはしないのだ。
ハッキリ言って、かなり、ブラックな、職場なのだ。
はてさて、あれから十日……。
五人の貴族は、目の下に、深い隈を作り、ヨシカに見張られ、何とか、仕事をこなしている。
誰が、最初に、脱落するかな……?
ガッツ達と一緒に、賭けでもしようかな……?




