幻影
「よう……。元気にやっているか?」
「ぎざまは……!」
ほう……。
驚いた。
ハキムの奴、多少なりとも、自我を、失わずにいるのか?
俺達を見て、憤怒の顔で、襲い掛かる!
哀れよのう……。
結局、何にも、成れなかったか。
ハキムから伸びた触手は、俺達に触れる事も叶わず、消滅する。
「GAAAAAAAA!?」
最後の理性が、怒りで、消失した。
それにより、自我を失い、暴走する。
「さあ、光に還れ……!」
俺もまた、人を止め、神として、君臨する。
膨大な瘴気が、俺の中へと流れ込み、力へと、変換されてゆく。
失えば、得ようとする。
数多の瘴気が、再び、ハキムの中へ!
しかし、それすらも、俺は、吸収し、
「さあ、終わりにしよう……!」
「ぐげっ!?」
ハキムの喉を、鷲摑みにし、全てを、喰らいつくす!!
巨大な化け物は、見る見るうちに、その姿を縮め、哀れな男の姿に、変貌する。
ハキム……。
ハキムは、最後に、妹であったアルマに、手を伸ばす。
愚かで、哀れな男であった……。
さらばだ。ハキム。
光の下へ還り、闇へと落ちろ……!
俺は、消失した男の残影を見つめ、儚く笑う。
そして、アルマ達を抱きしめ、静かに消えた……。
長い旅路であり、呆気ない、最後であった……。
全ての役目を終え、俺は、アルマ達と共に、天界へと帰還する。
エステカ達は、セラフィル達と共に、俺の帰りを、出迎えてくれた。
此度も、多くの者達と交わり、良き縁に恵まれた。
されど、別れの言葉も、許されぬ。
俺は、幻影……。
悲しき事かな……。
エミネ達や、ベルトラム達、後は、任せたぞ。
俺は、心の中で、願いを託す。
アルマとナタンは、アルシファードの、記憶を得て、戸惑っている様だ。
元の姿に戻った俺を見て、不安そうに、
「ジャショウお兄ちゃん……?」
「ああ、そうだよ、アルマ……。違う世界で、暮らす事に成るが、大丈夫そうか?」
「うん。お兄ちゃんが居れば、大丈夫」
「ナタン殿も、大丈夫そうか?」
「はっ!我は、大丈夫ですぞ!」
「そうか……」
俺は、二人を抱きしめ、光り輝く。
金色の誓い……!
アルマとナタンは、目を細める。
さて、時を、再び動かし、我が屋敷へと、帰るとするか……。
アスメアが、アルマの手を握る。
「アルマと言ったな?わらわを、アスメアお姉ちゃんと呼ぶが良い♪館に戻ったら、皆を、紹介してやろう♪」
「うん♪アスメアお姉ちゃん♪」
やれやれ……。
また、賑やかに成りそうだ。
ナタンも、笑顔を見せる、アルマを見ながら、嬉しそうに笑っている。
この者達なら、我が館でも、上手くやって行けるだろうな……。




