加速する時間
ハキムが、狂人の如く、喚き散らす。
あらゆる、負の感情を抱き、ハキムは、人間を止めた!
ハキムは、生きながら、瘴気に魅入られたのだ。
神魔王降臨……!
瘴気が、ハキムの中へと、流れ込んでゆく。
内外共に、多くの負の感情を抱えたハキムは、妖魔よりも、醜く浅ましい。
そこに、瘴気が、敏感に、反応したのだ。
偶然の産物……!
醜き、狂気……!
ハキムは、瘴気を受け入れ、醜悪な姿へと、変貌してゆく。
人間が、生きながら、瘴気を取り込む。
決して、あり得ぬ事。
あり得ぬ事が、現実に、起こってしまった。
今思えば、ハキムは、父を死に追いやり。多くの民を、苦しめて来た。恐らく、随分前から、魅入られてしまったのだろう。
この世界の瘴気は、魔王然り、確固たる、意志を持っていたのだ。
神の浄化から逃げる為、一つの、巨大な個へと、進化しようとしていたのか。
そして、ハキムが、選ばれた。
己が欲望の為に、肉親をも、道具として使う、浅ましき獣。
この世界の瘴気が、ハキムの下へと、集まってゆく。
ハキムは、醜悪な笑みを浮かべ、
「ははははは!!」
一閃!!
ウルカスムの兵達が、蒸発する!!
「我が絶対!我が真理!愚か者達よ!神と成った私の、裁きを受けよ!!」
ここまでか……!
俺は、空間転移をし、ハキムの暴虐から、ウルカスムの者達を、間一髪で救う!
「やれやれ……。人間でありながら、瘴気に魅入られたか……?」
「貴様は……?」
「あ?俺は、アルマの、兄ちゃんだよ」
「貴様は!貴様が!!」
ハキムであったモノが、怒りに、顔を歪ませ、瘴気の波動を放つ!!
しかし、俺は、涼やかな顔で、その瘴気すらも、吸収し、
「ふん……。獣風情が、首を垂れろ!!」
「ぐぎゃっ!?」
無数の刃が、ハキムを、ズタズタに、切り刻む!!
瘴気が、ハキムの体を、再生させている。
思ったより、厄介な、化け物だな……。
ハキムは、肩で息をし、
「貴様が……。貴様がまた、我が野望の、邪魔をするのか!!」
瘴気が、ハキムを、包み隠してゆく。
薄れゆく幻影は、憎々し気に、
「我が、絶対なる王!必ず、この世界を、我が手中に、治めてやる……!」
「逃げたか……?」
俺は、虚空を睨み、ハキムの気を探る。
ここでは、瘴気に覆われ、気配が探れぬか……。
やれやれ……。
これで、敵が、明確に成ったが……。
厄介な敵が、生まれたものだ……。
ふむ……。
厄介かと思っていたが、存外、ハキムが、魔王に成った事は、こちらの益と成ったか?
いくら、力を持とうとも、無能は無能。
そして、奴は、臆病だ。
俺に打ちのめされ、前へと、出ようとはせぬ。
それ処か、未だ、稚拙な用兵で、策略家気取りか?
こちらとしては、妖魔達が狩りやすく、助かるがな……。
他国の勇者達も、漸く、育ち始めている。
大規模な北勢が、今、まさに、始まろうとしている。
さて、ハキムよ。どう動く?
ロスコマンと、アースガルドが前進し。それに続いて、東の国々が、攻勢に出た。
用兵を知らぬ奴に、何が出来る?
俺の出番は、もう、無いのかもしれぬな……。
さあ、今年も、今日で終わりか……。
俺達は、バスラー孤児院に招かれ、新年を迎える。
目を擦り、一生懸命、起きていようとする、子供達。
三歳のアミルも、俺に抱き着き。うつらうつらとしながら、健気に、頑張っているよ。
ここは、平和で、変わらぬな……。
俺は、アミルの頭を撫で、
「アミル……。少し寝るか?年が明ける前に、起こしてやるよ」
「いや!アミルも、起きている!」
「そうか……。それじゃあ、もう少し、頑張ろうか……?」
「うん!」
シャフィカも、大丈夫そうだ。
リアノンは、アルマとお喋りをして、元気に起きている。
皆、成長したなぁ……。
俺は、この世界に、随分と、長居をしてしまった。
何時か、この子達と、別れる事に成ると思うと、少し寂しいな。
俺は、一日一日を、大切にしよう。
この子達の笑顔に見惚れ、俺は、静かに笑った……。




