憎しみ……!
俺は、たった一度の戦闘で、公約通り、アースガルドの戦局を、一変させた。
俺は、残照に照らされ、戦いの名残に浸る。
久々に、少し遊べたか……?
戦いの後の、高揚感と切なさは、何時も、何とも言えぬ、気持ちにさせられる。
命のやり取りに、慣れる事は出来ぬか……。
俺は、遠方を睨み、多くの命が、狩られてゆくのを、黙って悟る。
人の命とは、脆いモノだ……。
しかし、今はまだ、俺が、戦うべき時では無い!
まだ、この周辺の国々にも、曲がりなりにも、勇者が存在する。
出しゃばる必要は、無いか……。
俺は、シセルに、一礼し、
「私の、アルカディアの、援軍としての役目は、終わりました……。アルカディアは、他国を侵略する気も、また逆に、臣従する気もございません。約束通り、去らせて頂きます」
「そうですか……。ジャショウ様のご助力、感謝致します。お礼の一つでもと、思いますが……。今の私達には、何も、返す事が出来ません。どうか、ルキウス様達に、よろしくお伝え下さい」
「はっ!」
俺は、今一度、シセルの頭を下げ、去ろうとする。
しかし……!
「待ちたまえ!国は違えど、勇者を自称する貴様が、民達を見捨て、逃げ帰ると言うのか!!」
鬱陶しい奴だ……。
俺は、ぎろりと、アースガルドの将を睨む。
捨て駒に使われた、勇者達の怒りを乗せて、
「見苦しい奴等だ……!南の国々が、危機にさらされていた時、貴様達が、何をした?勇者達を、道具の様に使い、牙を奪い、妖魔達の生贄に捧げ、今度は、他国の勇者まで、生贄に捧げようと言うのか?貴様等こそ、身の程を、わきまえよ!!」
俺は、気焔を高ぶらせ、将の頬を、容赦なくひっぱたく!
将は、怒りに震え、俺の方を睨もうとするが、俺の顔を見た瞬間、
「ひっ!?」
その顔が、恐怖に歪む!
俺は、この地に来た時、多くを背負っていた。
剣の握り方も、碌に知らず、死んでいった、勇者達の魂が、俺の後ろに、ずらっと並ぶ。
憎悪、憎しみ、嫌悪……。
勇者達は、怒りの形相で、俺と共に、将達を睨んでいた。
俺は、アースガルドの、将達に背を向け、
「生涯、忘れぬ事だな……!貴様達の所業は、万死に値する!神の救いを、政治の駒にし、殺してしまったのだから……」
この言葉が、彼等の心を、深くえぐり、それ以上、何も、言う事は無かった……。
俺は、冷笑を浮かべ、
「時間を作ってやったんだ……。生き残った勇者達を、必死に、育てるのだな……」
それで、事態が、解決すれば良いが……。
恐らく俺は、再び、この地に、立たなくては為らないのだろうな……。




