ジョーカー
「ソ、ソルト様方!もう、お帰りに成られるのですか?」
「当たり前だ!命を狙われ、その上、その事件の責任を、我が国の勇者に、背負わせようなどと!この国の人間は、信用出来ん!!」
「お、お待ち下さい!その愚か者も、直ぐに解任します!このような形で、アルカディアの勇者達を、帰したと民達が知れば、国の威信にかかわります!誠心誠意、謝罪をさせて頂きます!だから、どうか、もうしばらくの間は!」
「知らん!貴様等の、都合であろう?」
最悪な形での、訣別だ。
家臣達は、涙を流し、必死に、非礼を詫びる。
ソルトは、この様に、感情的に成る男じゃ無いのだが……。
エレズの一件を、引きずっているな。
アーロンの愚行は、エレズに、よく似ている。
勇者と言う地位に、執着し。その割には、碌な努力をしない。
この二人は、よく似ているのだ。
俺達は、聖フィナゴールを、後にする。
結局、アポロニア達にも、あの一件以来、会う事が、出来なかったな……。
聖フィナゴールを抜け、ザンギバールに入る。
ザンギバールから、騎士の一団が。
俺達に敬礼し、
「カリス王女の命令で、ここより先は、我々が、護衛いたします!」
「済まないな。気を使わせてしまったか?カリス様の、ご厚意に甘えよう」
「「「はっ!」」」
無いとは思うが、俺を暗殺すると言う、筋書きもある。
俺を殺し、アーロンの暴走を、虚偽を交えて、正当化するのだ。
まあ、それをやった時点で、他国から、完全に、聖フィナゴールは、見放されるがな……。
まあ、そこまで馬鹿で無いと、思いたいのだが……。
正直、信用成らない輩が、多く存在する。
リシャードによって、あの国は、成り立っている様なものだ。
気を付けなければ、あの国も、早々に、瓦解するぞ。
それじゃ無くとも、ザンギバールでの一件で、諸国の信用を、失いつつあると言うのに……。
今後、勇者の在り方が、問われる事と成ろう。
やれやれ……。
リシャードも、今頃、頭を抱え、ため息をついているだろうなぁ……。
あれから、一か月が過ぎた……。
聖フィナゴールは、名誉回復の為、必死に、方々を駆けまわっている。
勿論、アルカディアにも、謝罪の使者が、何度も訪れた。
しかし、噂と言うモノは、尾を引き、生まれ変わろうとする、聖フィナゴールの、足を引っ張る。
何より、アーロンと言う勇者が、邪魔に成って来たのだ。
前にも話したが、アーロンと言う存在は、外交カードとして、役にも立たない。
それどころか、聖フィナゴールの、勇者の質を、著しく、下げている。
言うなれば、ババ抜きの、ジョーカーの様な存在だ。
これを活かすには、相当な、覚悟と努力が、必要に成って来る。
そして、聖フィナゴールは、最悪な使い方で、このカードの価値を、見出そうとした。
未だ、地獄の、キンブリアへの援軍……!
そこに、アーロンを、勇者として、派遣したのだ。
当然、リシャードは、猛反対した。
しかし、二人の貴族が、自分達の首と引き換えに、この最悪な策を、実行させた。
一人は、ザンギバールへの、援軍を止めた貴族……。
もう一人は、俺に、罪を被せ様とした貴族……!
この二人は、既に、聖フィナゴールで、アーロン同様、居場所が無い。
決死の覚悟で、アーロンと共に、戦場へと向かった。
決死……!
死を覚悟して、望んだ、キンブリア援軍は、アーロンの逃走により、貴族とその私兵は、悉く、妖魔に殺され、無残な死体が、聖フィナゴールに戻され、混乱に、拍車がかかる事と成ってしまった。
それから、数週間後……。
アーロンは、彼の実家に、匿われている所を発見され、再び、牢へと、戻される事と成る。
敵前逃亡……。
これにより、奴は、勇者の地位を、剝奪される事と成った。
エレズ、アーロン……。
二人の勇者が、多くの命を、奪う事と成った。
故に、全世界が、勇者と言う存在に、疑問符を付ける。
勇者は、神聖で、特別な存在……。
人々は、盲目的に、そう、信じ込まされていた。
本来であれば、誰よりも、前に立ち、多くの妖魔と、戦わなくては為らない存在。
しかし、何もしていない勇者を、崇める事で、勇者達から、牙を奪ったのだ。
本来であれば、数多の戦場を、駆け抜けて、誰よりも強く、輝く筈だった。
それだけの、素質を秘めて、生まれて来た。
しかし、現状……。
勇者を持つ、多くの国は、そのカードの力に酔いしれ、失う事を恐れた。
それが、本物の勇者を生む、妨げと成ってしまったのだ。
何故、この時代、多くの勇者が生まれたか……?
人々は、その真意を、漸く理解した。
神は人に、非情な希望を、託したのだ。
戦い、淘汰され、最後に立っていた勇者こそが、誠の勇者……!
人々は、〝真理〟に踊らされ、真理を見誤った。
正に、喜劇と言えよう。
神々の真意を知り、人々は、腑抜けた勇者に絶望し、膝をつく……。
まだまだ、平和は、訪れそうも無いな……。




