閑話 変わりゆくは、人の世界だけに非ず
「名無し!名無しは何処じゃ?」
「はいはい♪何時も、御側に居ますよ。イザナミ様♪」
黄泉の国が、大きく変わりつつある。
十王を名乗る審判達が、善人と悪人を、分け様と言うのだ。
天国と地獄……。
今、イザナミ達は、天国に、閉じ込められている。
まあ、閉じ込められているとは、語弊のある言い方か。
イザナミは、多くの神を生んだ功績で。
名無しは、人々を救う為に、人柱と成った事により、天国で、丁重に、もてなされている。
しかし、退屈な場所だ。
イザナミは、不満を募らせ、地獄の方へと、戻ろうとしている。
しかし、イザナミ達が、地獄へと行けば、また、大きな混乱を、招く事に成ろう。
最初の、人の死者である閻魔が、血相を変えて、イザナミの事を宥めに来る。
「イザナミ様!どうか、天国で、大人しくしていて下さい!死後の世界も、法の下に、治安を築いているのです!もう、勝手な事は、慎んで下さい!」
「ふん!西の神に、良い様に使われおって!儂等の国は、自分達で治め様と、お主は、考えられぬのか!!」
「世界は広く、また、一つなのです!西だの、東だの言って、視野を狭めていれば、本当の平和など、訪れませんぞ!」
「分かった、分かった……。お主は、口だけは達者だのう。その二枚舌、わらわが、引っこ抜いてやろうか?」
「勘弁して下さい!!」
十王の一柱、閻魔も大変だ……。
亡者を裁き、イザナミを諫めているのだから……。
名無しは、クスクス笑う。
閻魔は、怒り、
「これ!お前も、イザナミ様を、御諫めしなさい!」
「はいはい!閻魔様♪イザナミ様!今日も、天国の桃を、食べに行きましょう♪」
「そうじゃのう。これ!閻魔よ!今日の所は、名無しに免じて、大人しくしていよう。愚かな亡者共は、お主達に任せるぞ?」
「分かっておりますから!ああ!次の裁判が始まる!!」
黄泉の国も、賑やかに成ったものだ。
イザナミは、名無しの手を引き、歩き出す。
膨れた顔をしているが、イザナミの心情も、変わりつつある。
まだ、生きていた頃を思い出し、穏やかな生活を、それなりに、満足している様だ。
名無しは思う……。
何時までも、こんな時が、続けば良いと。
名無しは、イザナミの横顔を見ながら、クスリと笑った……。




