敗者は……。
アタウルフ達に、国境の警備は任せ、俺達は、一路、アルゴスへ向かう。
見たくも無いが、エレズ達の処遇だ。
今回の一件は、諸国に、大きな波紋を呼んだ。
恐らく、処刑と成るだろう。
俺達が、アルゴスに到着した時には、エレズ一家は、呆然と、処刑台に立たされていた。
父親の首が転がり、漸く、現実を知ったエレズ達は、必死に、抵抗する!
「こんな事、許される筈が無い!!放せ!僕は、勇者だ!!こんな事、許されないぞ!!」
「不遜だ!私達を、解放しなさい!!この子は、勇者なのよ!!」
暴れる母親が、断頭台で、跪かされる。
死刑執行人が、無表情で、母親の首も、斬り落とす!
般若の形相の、母親の首。
住民達が、歓声を上げる。
エレズは、震え上がり、
「こんなのおかしい!狂っている!!皆、落ち着いて!僕を殺しても、何にもならないよ!!」
執行人が、エレズの肩を掴む!
エレズは震え、喚き、
「頼む!見逃してくれ!!何でもする!何でもするからぁ!!」
ああ、無常……。
最後の首が、ごとりと落ちる……。
呆気なかったな……。
アルカディア、インスモーン、キンブリア……。
多くの国を、巻き込んで、騒動を起こした男は、呆気なく、殺されてしまった……。
何万もの人の、死を背負って……。
さて、敗者は、誰であったのだろう?
エレズ達か……?
それとも、エレズ達を、今日まで、殺せなかった、ルキウス達か……?
醜い幕引きに、俺は、目を背ける。
死人に、問うた処で、答えは出ぬか……。
俺達は、エレズに背を向け、王城へと向かった……。
「国王陛下……。多くの者が死にました……。エレズを生かした事は、失策でしたね」
「それは、どうかな?彼は、しっかりと、道化を演じてくれたよ。目障りな、キンブリアは、事実上壊滅。同盟国である、インスモーンとザンギバールは、魔巣の脅威から解放された。結果論だけど、私達の、予想通りだよ」
「はぁ……。エレズ達を、野に放ったと聞いた時は、正気かと疑いましたが……。奴等を、キンブリアに、誘導したのですね?私達が、ニッサ村に帰る時、珍しく、引き留めようとしませんでしたから、何かあると、思っていましたが……」
「あははは!彼は、ジャショウ君の力を、ベルトラム君達の力だと、勘違いしていたからね。必ず、仕掛けてくると、思っていたよ。直ぐに、エレズの後を追わせ、キンブリアには、草を潜り込ませておいた!あまりに、予想通りで、拍子抜けしたよ。ニッサ村の方は、君達さえ居れば、大丈夫だと判断した。今更、人間が、三千人集まった所で、ジャショウ君達には、敵わないからね」
「成程……。言いたい事もありますが……。ルキウス国王陛下の、知略には、恐れ入りました」
「あははは!ジャショウ君に褒められると、嬉しいものだなぁ!しかし、予想以上だよ!ジャショウ君も、キンブリアを利用し、ザンギバールの魔巣を、排除したんだから」
やれやれ……。
敗者は、ただ一国、キンブリアだったか……。
人の命を、金で買う国、キンブリア……。
多くの国から、憎まれている。
しばらくの間、混乱が続くだろう。
さてと……。
エレズ一家が、死した事により、ニッサ村に、害成すモノは、全て、消えた……。
俺もまた、しばらくの間は、見守る者として、世界の動きを、見続ける事としようか……。




