アタウルフ
「姫!いや、王女!ご無事で、何よりです!!」
「アタウルフよ。今日までよく、アモルゴスを守り、民達を守ってくれました。死んだ父に代わり、礼を言わせてもらいます」
「はっ!勿体無きお言葉!」
アタウルフと呼ばれた男は、涙を流し、首を垂れる。
カリスは、静かに頷き、
「ジャショウ様。これより先は、如何致しましょう?」
「ん?ああ……。バルト城と一緒が宜しいかと。周辺の妖魔を倒し、アモルゴスの安全を確保する。そうすれば、散り散りと成った、ザンギバールの民が、集まって来るでしょう……。その後は、最終決戦となります」
「分かりました……。ついに、王都ゴランを、奪還する事が、出来ると言うのですね?今後も、頼りにさせて頂きます」
「お、お待ちください!?」
俺とカリスのやり取りに、アタウルフが、慌てた様子で、声を上げる。
「この者は、何者ですか?一応は、アモルゴスを、救ってもらったが……。我が国の、人間では無いと、ご推察する……」
「ええ、この方は、アルカディアの援軍です。勇者ジャショウ。貴方も一度は、耳にした事があるでしょう?」
「勇者ジャショウ……」
アタウルフは、俺の前に立ち、値踏みする様に、俺を睨む。
そして、嫌悪感を露わにし、
「いけません!カリス王女様!他国の人間は、信用成りません!キンブリアも、聖フィナゴールも、虎視眈々と、我等が領土を、狙っております!アルカディアとて……!」
「アタウルフよ!口を慎みなさい!!父は、アルカディアの忠告を無視し、この様な事態を、招いてしまったのです。それでも、アルカディアは、我等を見捨てず、ジャショウ様を、お貸しに成ってくれたのです!今日まで、我等の為に、戦って下さったジャショウ様に、非礼を詫びなさい!!」
「くっ……!し、失礼した……。しかし!これより先は、我等が、カリス様の剣と成り、王都ゴランの、奪還に挑む!済まないが、アルカディアに、侵略の意思が無いと言うのであれば、早々に、立ち去ってもらおう!」
「アタウルフ!!」
アタウルフの言葉に、カリスが怒る。
しかし、アタウルフは、動じる事無く、
「カリス様!あなたは、王女と成られたのだ!目を覚まされなさい!このままでは、アルカディアに、従属させられますぞ!!これより先は、他国の手を借りる必要はありません!私が、軍を率いて、王都ゴランを、奪還してご覧にいれましょう!!」
「父の次は、あなたが暴走し、民達を、苦しめると言うのですか?」
「カリス王女!亡き国王陛下、ラーガ様も、民達を思ったからこそ、魔巣に挑んだのです!このままでは、我が国は、魔巣の脅威に怯え、滅びる事と成ったでしょう!私は、如何様に、貶されてもかまいません!しかし!前王ラーガ様のお心を、娘であった、あなた様が、否定する事だけは、決して、あっては、成らぬ事なのです!!」
「その父が、自らの過ちを悔やみ、私を逃がし、アルカディアに向かわせたのです!今日まで、私達の前に立ち、戦って下さったジャショウ様に、今一度、非礼を詫びなさい!!」
アタウルフは、俯き震える。
悔しそうに、歯を食いしばり、
「済まなかった……。今日まで、カリス王女様を守ってくれた事、心より感謝する……。しかし!どうか、分って欲しい!我等にも、守るべき国があるのだ!我等にもまだ、守るべき民が居るのだ!君に、悪意が無いのは知っている!しかし!国同士の駆け引きと言うのは、その様な善意だけで、解決出来るものでは無いのだよ!君であれば、王都ゴランを、奪還できるであろう!しかし、そこまで、君にやられてしまえば、我が国は、最早、自力で、立つ事は出来ぬ!王都ゴランを、奪還した暁には、必ず、アルカディアには、改めて、礼を言う!君への恩義にも、必ず報いよう!だから!だからだ!済まないが、ここは、黙って、去って欲しい……!我等は、自らの手で、戦わなくては、成らないのだ!」
真っ直ぐな武人だ……。
彼の言っている事は、全て正しい。
意地や見栄だけで、自分を立てて、俺を退かそうとしている訳では無い。
彼の言う通り、このまま、俺が戦えば、ザンギバールは、牙を失い、無力な国に、成り下がるだろう……。
俺は、カリスに、背を向ける。
「カリス王女よ……。その男の言っている事は、全て正しい……。一つだけ……。一つだけ、忠告させてもらう。今の兵力では、王都ゴラン奪還は、難しいだろう……。俺が、バルト城でやった様に、アモルゴス周辺で、妖魔と戦い、兵を鍛えろ。必ず、民達も、戻って来る!そしたら、民達も鍛え、精強な兵を増やすのだ!後の事は……」
俺は、横目で、アタウルフを見る。
アタウルフもまた、俺の目を見て、静かに頷く。
去り行く俺に、
「済まない、少年……。今日までの事、誠に感謝する!必ず、我等は、王都ゴランを奪還し、君の信義に報いると誓おう」
「死ぬなよ?アタウルフ……。生きて、その約束を、はたしてくれれば、俺は、何も言わない」
「分かった、ジャショウ。私は、必ず生きて、お前の所へ行く……!まだ若いが、その時は、一杯ぐらいは、酒に付き合ってもらうとしようか?」
「ふっ……」
ザンギバールか……。
中々、面白い国の様だ。
アタウルフよ……。
その約束、必ず、違う(たがう)なよ……。




