姫の涙と、強い決意
カリス姫か……。
多くの死を見てもなお、気丈に振舞う。
ソルトに頭を下げ、
「わが父の愚行により、アルカディアには、多大な迷惑を、おかけしました。アルカディアの忠告を無視し、この惨状を、招いてしまいましたが……。どうか、今一度、お力をお貸し下さい!虫の良い、話だと言う事は、分かっております。しかし、もう、我等には、頼る場所が、無いのです……」
ソルトは、腕を組み、静かにうなる。
難民達が、邪魔をして、軍を動かそうにも、動かす事が出来ないのだ。
全てが、遅すぎる。
難民を睨む、ソルトの目線に、カリス姫も気付き、
「この者達には、決して、アルカディアの地に、踏み込む事を、固く禁じます。だから、どうか……!」
「残念だが、信用出来ぬ!昨夜も、一部の者達が、ニッサ村に、忍び込もうとした!済まないが、殺す事に、成ってしまったよ。我等が、ザンギバールに向かえば、この者達が、何をするか分からぬ!故に、我等は、この場所を、離れる事が出来ぬのだ」
カリス姫が、涙を流す……。
儚げに、
「何もかもが、遅かったのですね……?王都は、妖魔達に占領され。民達は、ザンギバールを見限った。何もかもが……」
カリス姫の涙に、ソルトは、深く息を吐く。
俺の方を向き、静かに頷く。
俺もまた、静かに頷き、覚悟を決める。
俺は、ソルトの横へ行き、
「心もとないと、思われるでしょうが、私が、援軍として、ザンギバールに向かいましょう」
「あなたは……?」
顔を上げるカリス……。
俺は、優しく笑い、
「申し遅れました。ジャショウ・シルフィール!勇者あらざる勇者……。人は、私を、そう呼びます」
「ジャショウ・シルフィール……?あの、インスモーンを、ただ一人で、救ったと言う、勇者様ですか!我等の事も、救って下さると?」
「さあ?どこまでやれるか、分かりませんが……。姫様が、覚悟を示されると、言うのであれば、私は、再び、戦場に立ちましょう」
周りが、どよめき立つ。
家臣の一人が、恐る恐る、カリスに進言する。
「カリス姫様……。噂は、あくまで噂です。私達には、この少年一人に、希望を託す事に、同意する事が出来ません。いささか、無謀かと……」
「それでは、何か、ザンギバールを救う方法が、他に、有ると言うのですか?最早、今の私達には、兵と呼べる者が、千も居ません!村一つ開放するのも、苦しい戦いに成るでしょう」
「な、ならば、今一度、聖フィナゴールに、助けを求めましょう。民達の多くは、アルカディアに、集まっております。聖フィナゴールであれば、何とかなる筈です!」
「話に成りません!かの国は、形だけの救援で、我が国を、見捨てたではありませんか!その上、最近では、暴徒達だけでは無く、罪の無い民達も、間引いていると、聞いております!アルカディアの国境沿いに、民達が、集結している事が、その証拠でしょう?例え、妖魔達を、退けたとしても、ザンギバールは、聖フィナゴールとキンブリアに、滅ぼされる事と成ります。私達もまた、アルカディアから、勇者をお借りし、戦う必要があるのです!」
「は、はっ!しかし……」
「ヒルデリック。貴方の不安は、十分分かります。しかし!私達は、父の咎を背負い、戦って滅びるか。全てを投げ出し、妖魔を放置したまま滅びるかの、選択を、迫られているのです!私は戦い、少しでも、ザンギバールの汚名晴らしたいと思います」
ほう……。
強い姫様だな……。
ヒルデリックと言う男は、俯き、顔を上げ、
「姫様は、そこまで、覚悟されていたのですね……?出過ぎた真似をして、申し訳ありませんでした!不肖ながら、このヒルデリック!命を懸けて、カリス姫様と共に、戦いたいと思います!!」
「頼りにしております。他の者達も、どうか、私に、力を貸して下さい!」
「「「おお!!」」」
覚悟が出来た様だ。
アルカディアの、国境まで逃げて来た民達も、武器を取り、咆哮を上げる!
さて俺も、一仕事、するとしようか……。




