人として……!
アルカディアの使者が、青白い顔で、ニッサ村に立ち寄る。
俺とハラ婆さんの所に来て、
「ジャショウ様の、読み通りです。奴等は、魔巣を、壊すつもりの様です。インスモーンの惨劇を話し、何度も諫めたのですが……。鼻で笑われ、何時までも、アルカディアの世話に成らぬと、追い払われてしまいました」
「そうですか……。どうやら、ザンギバールは、意地に成っているようですね……。壁の高さを、低くし。急ピッチで、建設を、終わらせたようです。兵が、動き出しました」
「何ですと!?我等の忠告が、仇と成ってしまったと言うのか?私は急ぎ、アルゴスへと戻り、国王陛下に、援軍を要請します!どうか、ジャショウ様!それまでの間は、我等に代わって、この村を、お守り下さい!!」
「分かっております!使者殿は急ぎ、アルゴスへと向かって下さい!」
使者達が急ぎ、アルゴスへと向かう!
さて、ここからが正念場だ!
使者の早馬で、アルゴスまで、六日間。
そして、それから、軍が、ここまで来るのに、どんなに早くとも、十五日はかかろう。
ザンギバールが、魔巣と衝突するのは、使者と同じ、六日後……。
妖魔が溢れ、ここまで、押し寄せて来るまでに、さらに五日か……。
何とか、十日間、守り切って見せるぞ……!
全ては、俺の予想通り……。
予想通りが故に、絶望的状況……!
ザンギバールで、多くの命が、消えて逝く。
溢れ返る妖魔……!
ハラ婆さんは、アデナと共に、結界を強化する。
これで少しは、時間を稼げるだろう。
結界が、ニッサ村を守る事で、妖魔達の矛先が、ザンギバールに向けられる。
命が……。
命が消えて逝く……!
妖魔が、ザンギバールを蹂躙し、八日間が過ぎた。
遂に、矛先が、ニッサ村に、向けられる!
度重なる、猛攻に、ハラ婆さん達の結界が、ついには、破られる!
迫りくる、妖魔の軍勢!
俺は、咆哮を上げる!!
「ベルトラム!俺が、前線で暴れる!!お前が、ヤファ達と共に、この村を守るんだ!!」
全ては一瞬……!
俺は、全てを薙ぎ払い、君臨する!!
戦い、戦い!戦い抜いて!!
一匹の妖魔も、ニッサ村に、寄せ付けない!
俺は、この世界でも、鬼神として、君臨するのだ!!
全てを、喰らいつくす事は可能だ。
全てを、破壊しつくす事も可能だ。
魔巣を、浄化する事とて、可能な事だ。
しかし!
俺は、人として、この世界で、生きねばならぬ!!
悔しいが!
もどかしいが!
それが、今の、俺だ!!
俺は、人として、戦い、戦い!戦い抜いて、咆哮を上げる!!
何体もの妖魔が、俺から逃げ延び、ニッサ村を襲う!
しかし、俺は、一人じゃ無い!!
ベルトラムが!
ヤファが!
アデナが居る!!
彼等もまた、鬼神の如き働きで、妖魔達を、駆逐してゆく!!
丸々一日、俺達は、戦い続けた。
ハラ婆さんが、再び、結界を張った様だ。
最後の一匹を倒し、俺は、悠然と、ニッサ村に凱旋する!
歓声が上がる!
後六日……。
何とか、持ちこたえて見せるぞ……!




