勇者ならざる勇者
エレズは、ただの人として、鉱山送りと成った……。
喚き、叫び、天に向かって、唾を吐き。
奴は、あらゆる憎悪をまき散らし、引きずられる様に、謁見の間を後にする。
ベルトラムは、もう、動じない。
冷めた目で、エレズを見送り、俺の横に立つ。
「分かっちゃいたが……。あいつは、もう、人すらも、辞めてしまっていたんだな……」
ベルトラムの言葉に、俺は、儚げに笑い、
「いや……。醜いほどに、人間だったんだよ……。欲望に飲まれ、欲望に振り回されていた……。欲望を、隠そうともせず。あいつは、人を演じた……。哀れな男だ」
「そうか……。あいつは、最後まで、あいつのままだった……。あいつが成ろうとした勇者って、結局、何だったんだろうな?」
「さあなぁ……。あいつは、ただ、認められたかったのかもしれない。ただ、単純に、人々に認められ、褒めてもらいたかったのかもな……」
「ははは……。本当、馬鹿な奴だよ……」
「ああ、本当、馬鹿な奴だな……。あいつは、あいつのまま、逝ってしまった。俺達は、俺達の道を行こう」
皮肉なものだ……。
エレズはエレズのまま、何処までも逃げて、光に手を伸ばしながら、奈落へと堕ちて逝った。
それが逆に、ベルトラム達に、訣別の機会を、与えてくれたのだ。
もう、ベルトラム達には、迷いが無い。
エレズに背を向け、歩き出す。
ルキウス達は、それに、希望を見出し、大きく頷く。
勇者エレズ……。
奴が、勇者であった事は、まやかしであったか……。
エレズが消え、俺達の活躍が、更に、注目される事と成る。
たった四人で、何百もの妖魔を倒し、悠然と、凱旋する。
本来であれば、この一か月は、各々、磨いた技を携え、パーティーとしての、連携を学ぶ筈だった。
騎士達に同行してもらい、手頃な妖魔を相手に、実戦で、パーティーの絆を、育んでゆく。
そう言う筈だった。
しかし、蓋を返せば、俺達は、既に、固い絆で結ばれ、圧倒的な、武勇を誇る。
必然的に、訓練は、前倒しにされ。本格的な、妖魔討伐を、命じられた。
それでも、俺達の勢いは止まらず。騎士達は、俺達を崇拝し、騎士を従え、大規模な、軍事行動で、その力を発揮する事と成った。
人は、俺を、勇者ならざる勇者。戦場を駆ける姿を見た者は、一様に、武神と呼ぶ。
最後の一か月が終わる……。
さて……。
ニッサ村に、帰るとしようか……?




