ただの少年……。
「エレズよ……。牢獄の中で、少しは、頭が冷えたか……?」
ルキウスが、静かに問いかける……。
エレズは、俯いたまま、何も答えない。
「自分の罪と、向き合える様に成ったか……?」
再び、問いかける……。
エレズは、ゆっくりと、面を上げる。
憎悪、憤怒、あらゆる、負の感情……!
ベルトラムは、俺の横で、寂しく笑う。
「ははは……。あいつは、あいつのままか……」
俺は、ベルトラムの肩を、強く握る。
ベルトラムの優しさも、分からない程に、堕ちていたか……?
エレズは、全ての憎悪を乗せて、呪詛を吐く。
聞く者全てが、嫌悪感を露わにする。
エレズは、狂人の様に笑い……。
いや、既に、狂人なのだろう。
目を見開き、一同を見回し、最後に、俺を睨む。
「まやかしの勇者に騙され……。今日、この国は、偉大な勇者を、失う事と成る……!お前等、全員、地獄行きだ!!」
狂っているな……。
エレズは、頭を、大理石に叩き付ける!
血を流し、
「世間では、僕の血が、青いと言うが……!どうだ?赤かろう?お前達の幻想は、全て、まやかしだ!!この国を、本当に救いたいと思うのであれば、再び、僕を、勇者として祀り上げるしかない!分かっているのかなぁ?僕は、神に認められた、勇者なんだよぉ?」
誰もが、目を背けた……。
たった、十四歳の少年が、ここまで、壊れてしまうとは……!
ルキウスは、深く息を吐く。
エレズを、冷たく睨み、
「もう、良い……。君は、最後まで、人の心が、分からないのだな……?」
ゆっくりと、手を振り上げる。
その時……!
雷光轟き、まばゆい光が、エレズを包み込む!!
何が、起こったか、分らなかった。
人々は、ゆっくり目を開け、事態を確認する。
エレズは、聡い男だ。
狂った様に笑い、
「あははは!神も、お怒りの様だ!早く、縄を解け!!」
しかし、立ち会っていた、司祭が震える!
「前代未聞だ……!」
「そうだろう、そうだろう!僕は、神にも愛されているのだから!!」
「逆ですよ……。今、あなたの中から、真理が消えた!」
「は……?」
「最早、あなたは、神からも、見放されたのですよ!」
「な、何を言っているんだ!?僕は、勇者で、今のは……。えっ……?」
俺達にも分かる!
エレズを守っていた、神聖な力が、消えているのだ……!
エレズもまた、内なる力が、消えた事に、気付いたのであろう。
目を見開き、打ち震える。
「あ、あれ?僕は、勇者で……。神に、認められて……?どう言う事なんだぁ!?」
エレズは、狂った様に、暴れ出す!
天を睨み、
「神よ、神よ!セラフィルよ!!貴様も、この偽物に、騙されたと言うのか!?僕が勇者だ!!早く、僕を、勇者に戻せぇ!!」
エレズの叫びが、無常に木霊する。
やれやれ……。
セラフィルもまた、我慢の限界を、超えてしまった様だ。
ただの少年、エレズ……。
人が、手を下さなくとも、罰を受けたと言う事か……。




