さあ、魔王退治のお時間です!!
「勇者様!魔王を退治に行きましょう!」
それは、突然やって来た……。
朝の配達が終わり、皆が一息ついた頃、ギルドの扉が、豪快に開かれた。
「は?」
白銀の鎧に、透き通る様な金髪……。
左耳の上で輝く、花をモチーフにした髪飾り……。
この子……。
俺は、震えた手で、指さす。
「き、君は!?」
そうだ……!
騎士区で会った少女……。
少女は、俺を見つけると、一直線にやって来る。
後ろに、もう一人……。
薄茶色のローブに、真っ赤な髪……。
コロシアムで戦った、エル!?
エルは、若干オドオドとし、ギルドに入って来た。
俺達が唖然としていると、
「ジャショウ様!」
俺が座っている席のテーブルに、勢い良く手を置く。
そして、にっこりと笑う……。
「や、やあ……。前も聞いたが、君はいったい誰なんだい?」
俺の顔が引きつる……。
しかし、金髪の少女は、首を傾げ、
「魔王退治です!」
やっぱり、話が通じねえ~。
何?魔王退治って……?
俺は、君の名前を聞いてるんだよ?
引き攣った笑いで、少女を見る。
しかし、少女は、お構いなしに、
「どうされたのですか?さあ!行きましょう!」
俺の腕を掴み、引っ張てくる……。
「「ちょっと待ちなさ~い!!」」
俺と少女の間に割り込む影……。
シャルとサクヤだ。
少女は首を傾げ、思い出した様に、手を叩く。
「シャル様にサクヤ様ですね!コロシアムでの勇姿、見ておりました!」
少女の満面の笑みに、シャルとサクヤは、呆然とする。
まあ、そうなるな……。
この子のマイペースさ、異常だよ……。
兎に角、名前を教えてくれ~!!
しかし、そんな俺達に助け船が、
「ジャ、ジャンヌちゃん!」
エルが、少女の腕を引き、必死になだめる。
「どうしましたか?エルちゃん。ジャショウ様がいれば、百人力です!」
へ~。ジャンヌって言うのか……。
で、魔王退治って何?
最早、頭が追い付かない……。
兎に角、今はエルが頼りだ!
俺は、エルの方を見る。
エルは、困った顔で頷き、
「この子は、ジャンヌ・ラフィス。ブロウ・ラフィス様……。近衛兵長様のご息女です」
えっ!?
あの人、こんな大きな子が居たの?
俺と、シャルとサクヤは、声を上げる。
「近衛兵長、若く見えたのに……」
俺の呟きに、ジャンヌは、大きく頷く。
「はい!お父様は、若く見られる事が嫌で、一度、髭を伸ばしたことが有ったのです!」
何?そのどうでも良い情報……。
聞きたい事は、答えてくれないのに……。
しかし、ジャンヌは語る。
「あまりに似合わないので、私、お父様が寝ている時に、切って差し上げたのです!」
何?その、やり切った感の顔……。
お父さん、可哀そう……。
「随分アグレッシブだねぇ……。それじゃあ、近衛兵長……」
「はい!鏡を見て、笑っておりました!」
それ絶対、乾いた笑いだから!
お父さん、喜んで無いよ!
駄目だ!この子……。色々ヤバイ!
て言うか……。俺、この子、苦手!
俺は、椅子にしがみ付く。
シャルとサクヤですら、たじたじだ……。
この二人が勝てないって……。
「さあ、ジャショウ様!」
キラキラした目を向けないで!
だ、だれか!?
俺は、辺りを見回す。
駄目だ!皆固まってる!
それでも、
「ちょ、ちょっと、魔王退治ってどういう事よ?」
ラナが、声を上げる。
さすが姉さん!
皆が出来ない事を、やってくれる!
それにしても……。
ジャンヌ……。何故、不思議そうな顔をする?
疑問に思っているのは、俺達の方だ!
駄目だ!ジャンヌじゃ駄目だ!
一同、エルの方を向く。
エルが、困り顔で、
「あ、あの……。今、私達の街ユーロンが、危機に見舞われているのです……」
「何があった?」
エルのただならぬ雰囲気に、俺達の目が変わる。
ユーロンの危機だと!?
あそこには、黒玉がいるはず……。
神獣に守護されているはずなのに。
俺の真剣な面持ちに、エルが頷く。
「今、我が領土は、ある者から侵攻を受けているんです!」
「それはおかしい!侵略が有ったのなら、国や傭兵たちに、声がかかる筈じゃ!」
ベヘムが、唸る。
ベヘムの言う通りだ……。
何故、国が動かない?
しかし、エルが嘘をついているとは……。
「その者は、我が領土と因縁の在る者……。私達の救世主でした……」
エルは、ぽつりぽつりと話をつぐむ。
ユーロン領は、決して肥沃な土地とは言えない所らしい……。
しかし、ある時、何処からともなく男が現れ、膨大な魔力で、痩せ細った大地を潤し、民達に、新しい農業を教えてくれたそうだ。
男は、民達を愛し、親身になって、領土発展に貢献してくれた……。
しかし……。
領土の側に、瘴気の巣が発見され……。
「黒玉の時と同じなんです!その人は、私達を守るために!」
俺は、腕を組む。
瘴気に魅入られたか……。
しかし、
「何故、その男が関係していると?」
「ある貴族が、興味本位で、瘴気の巣を暴いたんです……。それで、不安定になった瘴気の巣が暴走して……。瘴気を押さえる為に、救世主様は一人、瘴気の巣へと行き……。瘴気は収まったんですが、その代わり……」
「その代わり?」
「瘴気の巣から、暴走したゴーレムが、あふれ出る様に……」
「男は、土属性の魔法の使い手か……?」
「はい……。その人は、街に居た頃、日に日に痩せ細っていきました。それでも、私達の為に!」
「優しい人だったんだな……」
エルの涙……。
俺は、静かに頷く……。
「ちょ、ちょっとまってよ!それで何で、馬鹿ジャショウが、出て来るのさ!」
ラナが、声を上げる。
ベヘムも頷き、
「うむ……。魔王とは何じゃ?そして、何故、ジャショウを、その様な危険な処へ向かわせねばならん?」
「心苦しく、思っています……。瘴気の巣に取り込まれているのなら、その者は、魔王と呼ばれる者……。そして、それを開放できるのは……」
「勇者しか居ません!」
エルの言葉を遮り、ジャンヌが、声を上げる。
一同は、ジャンヌを見て、
「勇者って……。馬鹿ジャショウのは、言葉のあやでしょ?」
「違います!ジャショウ様は、本物の勇者なのです!」
「あんたねぇ……」
「あなた達は、ジャショウ様の仲間でしょう。何故、コロシアムの戦いを知らないのですか?」
あの場に居た、俺達以外が首を傾げる。
「コロシアムの戦い?」
「そうです!」
ジャンヌは、鼻息荒く、一同を見る。
「七月二十五日の!」
「ぬう……。儂らは生憎、他の街に居たのう……」
「ぼ、僕達も、まだ、この街に居ませんでした……」
「仕方がありません……」
ジャンヌは、ため息をつき、背負っていたカバンに、手を伸ばす。
しかし何?その熊さんバック!?
可愛いんですけど……。
いや……。今はそんな事より……。
「えっと……。これです!」
取り出した物は、拳大の水晶……。
「そ、それは……」
師匠が、声色を変える。
「お主、あの時の事を口外するのは、御法度じゃぞ!」
「この方達は、ジャショウ様の、仲間なのですよね?」
ジャンヌが、首を傾げる。
師匠は、ため息をつき、
「お主、記憶の水晶に、留めておったのか?」
「はい!ジャショウ様の勇姿。何時でも見れるように!そして、何時の日か、世の人達が知るために!」
ジャンヌは胸を張り、大きく頷く。
記憶の水晶って、何?
また、俺、置いてきぼり?
俺とサクヤ以外は、理解しているらしい。
俺とサクヤは、首を傾げる。
「まあ、ギルム殿。儂らは家族じゃ!知る権利があろう……」
「ふう……。シルフィー、扉と窓を閉めてくれ……。皆の者は、これから見るモノを、口外してはならぬぞ?」
師匠の言葉に、皆頷き、ジャンヌは嬉しそうに、水晶に手をかざす……。
うお!?
映像が、飛び出て来た!?
俺、知ってる!
これ、映画って言うんだよね?
しかし……。
これって、俺達!?




