命の重さ
俺一人、国王に呼ばれた。
実に、面倒臭い。
謁見の間……。
国王陛下は、柔和な笑みを浮かべ、俺の参上を、待っていた様だ。
国王陛下の横には、ソルトともう一人、老齢の男が立っている。
俺は、深々と頭を下げ、
「ジャショウ・シルフィール!王命に従い、ただ今、参上いたしました!」
「うむ。急に呼びつけて、申し訳なかったな」
「いえ!国王陛下を待たせ、大変、申し訳ありません」
ルキウス達は、ニコニコ笑う。
「誠に、君が勇者でなくて残念だ」
「は、はあ……。先ほども言いましたが……。私は、器用貧乏の、お調子者です。国王陛下が、気にかけて下さる様な、大した人間ではありません」
「先ほども言ったが、自分を卑下するな!ジャショウ・シルフィール!君の事は、調べさせてもらった。千年に一度の人間、万能の真理を持つ者。何故、野に埋もれようとする?神がかった戦術眼に。圧倒的武威!隙が無く、影すらも見破る!その上、その影に悟られず、魔力の目を追従させる程の、魔術の使い手!調べれば、調べる程、驚かされるばかりだ!君であれば、勇者すらも追い越し、多くの民を、救う事が出来るだろう?」
やれやれ、面倒な事に成った……。
俺を、取り込もうと言うのか?
俺は、静かに、息を吐き、
「申し上げます!命の重さは、人の数で、決まると思いますか?命の重さは、人の地位によって、決まるモノなのですか?不遜な事を、言っている事は、重々承知です!しかし、私は、万の人を救うのも、二百の人を救うのも、変わらない事だと、思っております!私は一人、森を彷徨い、ニッサ村の人々に、命を救われました!私はただ、恩義に報い、自らの信念を、貫き通す所存です!」
国王陛下は、目を細め、横に居た、初老の男に、声をかける。
「ロースよ。この少年の、信義を、私達は、見くびっていた様だ。私は、何だかんだ言って、アルゴスへ来れば、ニッサ村の事など忘れ、名声を得ようと、私に、すり寄ると思っていた。しかし、先ほどの謁見も、今回の謁見も、決して、自分を売り込もうとはせぬ!仲間の成長を喜び、自分は、ニッサ村の為に、その力を使うと言う。お前の当ては外れたな。この少年は、名声などに、なびく事は無い!」
ロースと呼ばれた男は、深々と、ため息をつく。
「おっしゃる通りです……。若い故に、それだけの力を持つが故に、勇者を廃し、自分を立て様とすると、考えておりました。難儀なものです。知勇武、全てを備えた、この少年を、指を銜えて、ニッサ村に、帰さなくてはならぬとは……」
「ジャショウよ!今一度問う!国に仕えるつもりは無いか?」
「私が守るは、ニッサ村の者達です。どうか、ご了承ください!」
しばしの沈黙……。
ルキウスは、深く息を吐き、
「私は、君の事を、あきらめぬぞ?今日は、疲れたであろう。ゆっくり休め」
「はっ!」
やれやれ……。
面倒な人達に、目を付けられてしまったな。
何とか、俺の仕官を、諦めてもらわなくては……。




