ソートの正体
馬車が走り出す……。
遥か後ろでは、罵詈雑言を、吐き続ける、エレズの姿が……。
どんどん、遠ざかってゆく。
影の人も大変だぁ。
こんな草原の中、必死に身を潜め、エレズのお守りをしなくちゃならぬとは……。
エレズが居た頃は、遠慮して、話しかけて来なかった大人達が、俺達に、話しかけて来る。
この旅で、俺が見せた戦術や、武芸、魔法の類、大人達は、何処で学んだのかと、気に成る様だ。
俺は、笑い、曖昧に、
「村を焼かれ、一人で旅をする中で、自然と身に着いたものです」
大人達は感心し、ベルトラム達は、目を輝かす。
大人の一人が、嘆息を漏らし、
「本当は、君が、勇者じゃ無いのかい?そうあって欲しいのだが……」
「ははは……。私はただの、村人Aですよ」
俺は、おどけて、話を、はぐらかす。
そんな中、ベルトラムは、心配そうに、
「でも、ソートさん、大丈夫なんですか?エレズの奴、あれでも勇者だから……。こんなに良くしてもらって。勿論、俺達も、ソートさん達の為なら、一生懸命、国王陛下に、説明します!だけど、やっぱり、あいつは、勇者だから……」
良い奴だな……。
村では、決して、頭を下げない様な奴だったのに、他人の為に、ここまで、必死に成れるとは。
俺は、ソートと、顔を見合わせる。
そして、頷き、
「皆、大丈夫だよ……。今まで、皆が、成長出来る様に、隠していたんだが……。ソートさん達は、国王陛下から派遣された、俺達の、護衛なんだ。村を出た辺りから、ついて来ていたから、警戒はしていたが……」
「マジかよ!俺達、気付かなかったぞ!」
ベルトラム達は、ソート達の正体を知り、目を丸くする。
ソートは、照れ臭そうに笑い、
「参ってしまいましたよ……。国王陛下には、君達の成長の為、気付かれない様にと、厳命を受けていたのですが……。あっさり、ジャショウさんには、気付かれてしまいました。その上、国王陛下の考えにまで気づき、私達と、話を合わせてくれるのですから」
「ははは……。ハラ婆さんは、怒っていましたが。国王陛下の事を、信頼していましたからね。人々からの話を聞き、自分の中に、国王陛下を思い描いた時、答えが、導き出せました。それから、もう一つ!ソートさんは、自分達の事を、影と言いましたが……。厳密に言えば、ソートさんと、数名の者達は、違う立場の人間でしょう?武の匂いが、強く出ている」
「ま、まさか、そこまで、当てられてしまうとは!」
「人を、よく観察して見ると良い。色んな事が、見えてきますよ……。ソートさんに限っては、武人の中でも、相当、上の位の、人間ですよ。剣を握る人に出来る、タコがある。それと一緒に、ペンだこも出来ている。恐らく、書類仕事も、するのでしょう?」
「く、くくく、ははは!ジャショウさんは、本当に、人の心を覗ける、魔法使いの様だ!本当の名を、お教えしよう!アルカディア騎士団団長!ソルト・シュガー!何かあったら、私を頼ってくれると良い!それなりに、国王陛下とも、面識があるからな!」
「アルカディア騎士団団長って!?面識どころか、国王陛下の、懐刀と言われるほどの、大人物じゃないですか!そ、そうとは知らず、大変失礼しました!!」
ベルトラム達が、大慌てで、頭を下げる。
ソルトは、ニコニコ笑い、
「そう、改まらないでくれ!たった、十日間の旅であったが、君達の成長を見ている内に、我が子の様に、愛おしく思う様に成ってしまったのだ!出来る事なら、エレズと言う少年も、正してやりたかったんだがなぁ。あれは、相当、根気がいる」
俺とソルトは、顔を見合わせ、肩をすくめる。
やれやれ……。
エレズの奴……。
無事に、城まで、辿り着けば良いが……。




