表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天翔雲流  作者: NOISE
深い森の中で
15/1793

世界樹の新芽は、タラの芽か?

―錬気には、陰と陽がある……―

 その時は、無意識だったのだろう。

 ただ、子ザルを助けてやりたくて、気付いた時には、錬気を流し込んでいた。

 子ザルの体は、淡い光に包まれ、体に負った傷が、癒えていく。

『ジャショウちゃん。それって……』

 やがて、子ザルの傷は無くなり、怯えていた子ザルは、ジャショウの手の中で、不思議そうな顔で、見詰めてくる。

『ジャショウちゃん。いつの間に、陽の気に目覚めたの?』

 俺は、子ザルを離してやると、自分の両手を見詰める。

 子ザルを治してやりたい一心で、抱きかかえていたら、自然と治す事が出来た。

『いや、なんか自然に……』

『今の感覚、忘れちゃだめよ』

 ナビ子に言われ、今の感覚を思い起こす。

 心を平静にし、命を分け与える感じ……。

 また一つ、新たな力に目覚め、笑みが零れる。

 そんな俺を、子ザルは首を傾げ、キーキーと声をあげ、服の裾を引っ張てくる。

 敵意が無い事が伝わったかな?

 妙にじゃれついてくる、子ザルの仕草が、かわいく思え、そっと頭を撫でてやる。

 初めて、俺から逃げない動物に出会えた。もちろん、食べないぞ。これ、本当!

 よくよく観察してみる。子ザルは薄汚れていて、黒と茶の毛色は、決して奇麗と呼べないが、愛嬌があって可愛らしいじゃないか。

 うん。可愛いは正義だ。

 ナビ子じゃ無いが、やっぱり可愛いものを見ると、心がほっこりする。

『この子、ユキザルよ。本当は、雪の様に白いはずなんだけど……』

『ユキザル?』

『そう。鑑定してご覧なさい』

 ナビ子の言う通り、鑑定してみる。


    ユキザル(亜種)

 体長・20~30㎝

 本来、体は雪のように白く、その毛皮を狙う密漁団が、後を絶たない。

 また、魔力に富み、精霊魔法を使う者もいる。

 別名・シャーマンザル


『この子、ユキザルの亜種みたいだね』

 俺は、そっと手を伸ばし、ユキザルの頬を撫でようとする。

 ユキザルは、一瞬怯み、首をすくめるが、すぐに気持ちよさそうに目を細め、撫でられている。

『ジャショウちゃん。この子、何をしようとしてたのかな?』

『解らん』

『念話で、話したら?』

『念話で?念話は、ナビ子と話すものじゃないの?』

 俺は、首を傾げ、ユキザルを見る。

『兄ちゃん。誰と話してるん?』

 不意に、ナビ子以外の声が、頭に響く。

『え?』

『念話は、心と心で話すから、種族は関係ないよ。まあ、LV2だと、触れていないと、出来ないけど……』

 ナビ子の言葉に、再び、ユキザルを見詰める。ユキザルは、不思議そうな顔で、こちらを見詰め返す。

『俺の声が、聞こえるのか?』

 恐る恐る、問い掛ける。

『聞こえるよ?』

 ユキザルは、俺の手を伝い、肩へと上る。

 肩へと上ったユキザルは、俺の髪を、毛繕いする様に、撫でまわす。

『アタイ、こんなんだから、みんな気味悪がって、一緒に毛繕いしてくれないんよ……』

 ユキザルは寂しそうに、項垂れる。

 そんなユキザルの背中を、優しく撫でてやる。

『アタイ、この木の新芽を食べて、白い体になろうと思っただけなんよ……』

『新芽を?』

 俺は、枝の先に輝く葉に目をやり、鑑定をかける。


    世界樹の新芽

 世界樹の息吹には、強い魔力が内包しており、その芽には、新たな命を吹き込む力がある。

 天ぷらにすると、うまし!


『大変だ、ナビ子!天ぷらにするとこの芽、美味しいって』

『その食レポ、今はいいから!』

 口からよだれが零れる。

 俺は、知っている。天ぷらとは、油で揚げた、食べ物の事だ!

 ああ、ここに来てまた、異世界転生のススメの知識が、役立った……。

 異世界転生のススメ、侮りがたし!

 思えば長かった、チートスキルも、オークも食べられない。能力は高いが、別に圧倒的と言う訳でもない。

 いや、圧倒的か……。

 しかし、昨今、ナチュラルチートなど流行らない……。

 この知識、クソの役にも立たないのでは?なんて思っていたが、これで美食にありつける。

『ジャショウちゃん。天ぷら作るのに、油も、小麦も、卵も無いよ』

 内心ガッツポーズをしていた俺は、一気に項垂れる。

 そんな俺の心を知ってか知らずか、ユキザルは、項垂れた俺の頬を叩き、世界樹の新芽を指さす。

『アタイは、あれを食べて、白い体になりたいんよ……』

 大切な事だから、二度言った。そんな感じでユキザルは、俺の方を向く。

 ユキザルは、物欲しそうな顔で、俺と新芽を交互に見詰める。

『お前は身軽だから、枝先に行って、採ってこれるんじゃないのか?』

 俺は、天ぷらを名残惜しく思いながらも、優しく頭を撫で、ユキザルに問い掛ける。

 ユキザルは悲しそうな瞳で、こちらを見詰め、首を横に振った。

『無理なんよ……。触ろうとすると、痛いのが体に駆けめぐるんよ』

 ユキザルは、肩を両手で抱え、震えながらうずくまる。

 こんな子が必死に哀願しているのに、天ぷらって……。俺は、何を考えているんだ……。

 俺は慌てて、邪念を振り払い、このユキザルが、必死に何かと戦っている事を思い出し、自己嫌悪に陥る。

『ジャショウちゃん。世界樹の新芽には、強い魔力が宿っているから、その芽を摘もうとする者から防衛する様に、エネルギーの膜を張っているのよ』

 震え、小さな体を更に小さくしてうずくまるユキザルを見て、何とも言えない、保護欲に駆られ、包み込むように抱きかかえる。

『何とかならないのか?ナビ子……』

『う~ん。世界樹を傷つける事は、あまり感心しないけど……。方法が無いわけじゃ無いわ』

 夕闇の中、光輝く新芽を見て、採れぬものかと、手を伸ばす。

 しかし、身体の重さに、枝が軋む。

『落ち着いて、ジャショウちゃん。助けたい気持ちは、私も一緒!方法が無いわけじゃないから』

『本当か?』

 俺は、はやる気持ちを押し殺し、ナビ子の言葉に耳を傾ける。

『その前に、採るのはジャショウちゃんじゃなくて、そのユキザルよ。その子に覚悟はある?』

 俺は、抱きかかえたユキザルの頭を、そっと撫でてやる。

『方法があるらしい……』

『ほんま?』

『ああ。けど、採るのは、君の仕事だ。あんなに傷ついた後だけど、大丈夫?』

『……。アタイ、頑張れる!』

 ユキザルは、大きな目を、さらに大きく広げ、俺を見て力強く頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ