ああ、この勇者パーティーも、ダメかもしれぬな……。
で、どうしろと言うのだ?
取り敢えず、イーラ!は、根が深そうだから、ファスナの方を、どうにかするか……。
正直、どうして良いか分からぬが、ログナールの事が、好きで、好きで、仕方が無いのだな?
それなら先ずは、
「ファスナと言ったな?ログナール殿の事が、好きだと言うなら、マヤに縋るのでは無く、ログナール殿の事を、知る事から始めよ!」
「ログナール様を知る……?」
呆然とするファスナ。一方的な感情は、人を傷つけるものだぞ?と言うより、ストーカーに近い。悟ってくれよぉ……。
しかし、ファスナは、むふふんと笑い、
「私は、ログナール様の事なら、何でも知っている!朝は、四時に起き、素振りの稽古!朝食の定番は、コーヒー二杯と、目玉焼きに、食パン三枚!食事の後は、歯磨きをし、髭の手入れをする。七時には、訓練場へ赴き、清掃をする!左隅から掃除をするのが基本だ。そして……」
「もう良い……」
これは、駄目だ……。
コイツ、既に、ストーカーの様なモノだ。早朝から、マヤ宅を、覗いているじゃ無いか。早く、何とかしないと……。
マヤを始め、聞いていた者達が、一歩後ろに下がる。当然の反応だ。だって、気持ち悪いもん。
俺は、ウンザリした顔で、
「もう、ログナール殿に、告白しろよ」
そして、訴えられちまえ!
ファスナは、目を輝かせ、
「良いのか!?しかし、節操の無い女だと、軽蔑されないだろうか?」
お前のやっている、ストーキングこそ、軽蔑されるわ!っと、喉元まで、出かかるが、グッとこらえる。
さっさと、玉砕して来い!
ファスナは、しばらくの間、自問自答していたが、両眼に、炎を宿し、
「それでは、ログナール様の処に行って来る!この思いを、もう、隠し通せない!待っていて下さい!ログナール様ぁ!!」
「おい!ログナール殿が、何処に居るのか、知っているのか?」
「心配ない!今は、訓練中だ!六分二十六秒後に、休憩に入る!その時私が!!」
駄目だ。あのストーカー、どうにかしないと……。
後で、衛兵に突き出すか……?
マヤは、俺の陰に隠れて、怯えている。小声で、
「しばらく、家には戻りません……!」
でしょうねぇ……。
家の中が、監視されているのだから……。
皆、呆然としている。しかし、一つの問題は、片付いた。後は、イーラの方か……。
こちらも、随分、こじれているからなぁ。
俺は、務めて優しく、子供を諭す様に、
「イーラよ……。お前は、姉と、どう接したいのだ?顔を見るのも嫌か?」
「……」
俯き、何も言わない。さっきの話しぶりからして、ニーナに、認められたいのだ。素直に成れない、難しい年頃か……。
「お前はニーナに、認めてもらいたいのだろう?けどなぁ、ニーナは、一人で、必死に頑張って来たのだぞ?お前は、それを、認めているか?努力もしないで、何でも出来る。そう思って、ニーナの努力を、認めていないのでは無いか?」
「知っているわよ……。姉さんが、人一倍、勉強しているのも……。影で、必死に、魔法の訓練をしている事も!」
イーラは、涙を浮かべ、俺を睨む。どうして良いのか分からない。そう言う所か。
この子も、頑張って、頑張って、頑張って!賢者と成った。ニーナと、肩を並べる為に……。
堰を切ったかのように、
「あの、糞勇者が、お姉ちゃんを傷つけた時、殺してやろうと思った!お姉ちゃんが、それでも、頑張っていると聞いて、とても嬉しかった!でも、でも!お姉ちゃんに、帰ってきて欲しかった……」
漸く、素直に成ったか……。
ニーナは、困り顔で、ため息をつき、イーラに、ハンカチを渡す。
「涙……。拭いて……」
「お姉ちゃん……」
おお!これぞ、姉妹愛!
ん?
イーラの様子が変だ。手渡されたハンカチで、涙を拭くふりをして、匂いを嗅いでいる。そして、だらしない顔に!?
姉妹愛……?
「ふ……。ふへへへ……。お姉ちゃんの匂い……」
ああ、これも、残念な奴だ。姉妹愛?シスコンと言う奴か!
イーラは、大事そうに、ハンカチをしまい。代わりに、自分のハンカチを、ニーナに手渡す。何か、怖いぞ……。
ニーナは、気付いていない様だ。
漸く、笑顔を見せたイーラに、ニーナは、微笑み返す。イーラは、感極まった表情で、
「お姉ちゃん!御免ね!私、お姉ちゃんの事、凄く、凄く!〝愛して〟いるから!」
シスコンに、あの目は、ヤンデレ属性!?
ニーナさん!早く気付いてぇ!色々と、ヤバいぞ!!
イーラは、ニーナに抱き着きながら、謝罪している様で、ニーナの匂いを、必死に嗅いでいる……。
こりゃあ、この、勇者パーティーも、駄目かもしれない……。




