勇者降臨
新たな勇者が決まった……。
十四歳の、栗色の髪の、小柄な少女。
しかし、厄介な事に、
「師匠ぉ!!」
俺を師と呼び、ダイブする。
俺は、それを、華麗に躱し、
「今日は、何の用だ……?」
「師匠!師匠!師匠!師匠♪」
「お前……。言葉が喋れぬ、訳では無いだろう?」
見えない尻尾を振り、俺に抱き着く勇者。
彼女は、俺の、大ファンらしい。
どうしてこうなった……?
遡る事、三日前……。
勇者候補生……。
ポメットと言うのだが、厳しい訓練に耐え、仮勇者と成った彼女は、最後の試練を、受ける事と成った。
神剣の解放……。
ガイアと違い、彼女は、仲間と共に、最下層まで行き、神剣に認められた……。
漸く、この世界に、勇者が降臨したのだ。
そこまでは、良かった……。
実力も、そこそこある。
四天王は、まだ、倒せないが、七将辺りであれば、倒す事が出来るだろう。
フィリス三世達も、満足している。
しばらくの間は、諸国を旅して、実力を付けると言う事で、話はまとまった。
俺も、その会議に、出席していたから、具体的な内容を、聞かされている。
漸く、人々にも、希望が見えたと言う事だ。
その間、同じく出席していた、ポメットは、羨望の眼差しで、俺を見ていた事は、良く知っている。
徹底的に、無視をしたが……。
会議が終わると、ポメットは、俺に駆け寄って、
「ジャショウ様!ジャショウ様♪サイン下さい!」
「は?」
勇者が、冒険者の、サインが欲しいだと?
頭に、ウジでも湧いているのか?
俺は、それを、やんわり断り、帰路につく。
しかし!付いて来る。
トイレに逃げ込もうと、付いて来る。
まるで、子犬の様だ。
これに焦ったのは、ネガレカ教僧侶、ラフィーだ。
悪い奴じゃ無いのだが、ネガレカの教えに、命を賭けている。
何としても、勇者に、魔王を倒させ、人々に敬遠される様に成った、ネガレカ教再興を、夢見ているのだ。
その為の勇者が、一冒険者に、懐いている事は、由々しき事態だ。
一計を案じ、
「フィリス三世国王陛下!我等の力は、まだまだ未熟です!四天王を倒したと言う、風のメシアの皆様の、胸を貸して頂けないでしょうか?」
「ふむ?御前試合か……。しかし、ジャショウ達に敗れても、落胆するでないぞ?」
「はっ!」
ラフィーは、ポメットや仲間達の力に、絶対の自信を持っていた。
俺達を倒し、伝説を、塗り替えようと言うのだ。
少し、焦り過ぎの様に思えるが、致し方なき事。
それだけ、追い詰められているのだ。
ギーラ領とは、ネガレカ信者にとって、聖地に価する。
しかし、今は、見る影も無い。
ラフィーは、熱狂的な信者として、それが、許せぬのだ。
故に、勇者パーティーに志願した。
勇者を補佐する事で、今一度、ギーラ教会の、威光を取り戻そうと言うのだ。
少しでも早く、結果を出したい。
されど、ガイアの失敗により、エルバートを始め、諸国は、慎重的な構えを取っている。
直ぐに、勇者を、前線に投入せず、エルバートで、力を蓄え、各国で、猛威を振るう、魔物達を倒させる。
四天王退治は、その後だ。
何度も言う、故に、ラフィーは、焦っていたのだ。
俺達を倒す事で、四天王に、対抗出来る事を証明し、華々しい武功を挙げ、その恩賞で、ギーラ領の復興を、考えているのだろう。
そんな、目論みがあるにも関わらず、御前試合は、すんなり、了承された。
まあ、勇者パーティーと、俺達のパーティーは、浅からぬ因縁が有るからな……。
勇者ポメットは、俺の大ファン。
賢者イーラは、ニーナの異母姉妹。
戦士ファスナは、マヤの父に恋をしている。
各々が、俺のパーティーに、実力を見せつけたがっているのだ。
特に、賢者イーラは、ニーナを、意識し過ぎている。
各々が、各々の思惑の中、御前試合が開かれる……。
まあ、どれ程の実力が有るか、見ものだなぁ……。




