変わりゆく情勢
「そう、興奮されるな、ガイル殿……。勇者の時も、そうであったが、現実的に考え、この様な少年に、過度な期待をかけるのは、いささか、酷な話だ。ジャショウと言ったか?少年の言う通り、兵同様、勇者も、育てる必要が有る。我等は、それを怠ったのだ。今からでも遅くは無い!ガイアと言う勇者を鍛え直す為、世界中で、暴れ回っている魔族を倒させ、本物の勇者に、するしかあるまい」
ほう……。
冷静な判断の出来る者が、ここにも、存在したか……。
この男は、レーザル聖帝国、国王、イシュタナと言ったか?
それなりに、噂を聞いている。
熱心な、ネガレカ信者で、ギーラ教会と、深く繋がっていると聞く。
まあ、それを聞いたら、アウトなんだが。
ガイルは、アシュタナを、ぎろりと睨み、
「知った風な事を!イシュタナ殿は、あのジョセフ司教と、懇意にしていたと聞く。あの似非勇者が、よほど大事と見える!よろしい!為らば、あの似非勇者を、誠の勇者にして見せよ!我がオールド帝国は、今まで、魔族の侵攻の、防波堤を担っていたが……。これより先は、自国のみの守りに専念する!魔族の猛攻に、お前達の弱兵で、どれだけ持つか見ものだな!」
「な、何を言われるのですか!?確かに、魔族の猛攻を、防いで下さっているのは、オールド帝国です。しかし、その代わり、我等は、多額の援助を、行なって来たでは無いですか!!」
「もう、そんな物はいらん!自分達の国は、自分達で守れ!!」
どいつもこいつも、下らない、駆け引きをしているなぁ……。
これで、オールド帝国は、魔族の侵攻を食い止めると言う、その役目を捨てて、守りに入るか……。
他国の重鎮達は、焦りの色を、見せ始める。
しかし、ガイルは、憤怒の顔で、
「数日中に、あの似非勇者は、レーザル聖帝国に、お譲りいたそう!その後、我が国は、防衛戦を縮小し、自国の守りに専念致す!よろしいな!!」
誰も、何も言う事が出来ない。
イシュタナさえも、頭を掻きむしる。
しかし、ガイルは、続けざまに、
「フィリス三世よ!我がオールド帝国は、貴公の国、エルバート国と、今一度、同盟を結びたい!ギーラ教会の言葉が侫言で、この少年の力が、本物であると、証明させてもらいたいのだ!!」
「う~む……。子供に、大人の尻拭いをさせろと……?プライドの高い、ガイル殿の言葉とは、思えませんなぁ」
「儂の目が、節穴でないと、証明したい!」
「ふむ……。ジャショウよ。お主は、どう思う?」
「私ですか……?」
おいおい、急に、俺に振るなよ……。
一同が、俺の方を向く。
仕方が無いか……。
俺は、肩をすくめ、
「俺は、冒険者です。依頼と在らば、受けさせて頂きます。しかし、前に、国王陛下と約束した条件は、どうなさるつもりですか?」
「約束とは何だ?」
ガイルが、問いただす。
フィリス三世は、思い出したかのように、手を叩き、
「そういえば、そうじゃったな!勇者が、魔王を倒すまで、エルバートから、離れぬと言う約束じゃったか?」
「はい、その約束です……。オールド帝国にとっては、存亡の危機!正式に、エルバートと、同盟を結び、国王陛下の了承を得られるのであれば、微力ながら、仲間と共に、オールド帝国の、援軍に向かいたいと思いますが……」
「ふむ……。今まで、我等の為に、戦って下さった、オールド帝国が滅びるのは、実に忍びない!では、ジャショウ!オールド帝国が、自国の防衛を固めるまで、援軍として、ガイル殿の、麾下に入ってもらえるか?」
「畏まりました……。魔族の大群かぁ。少しは、暇つぶしが出来るかな?」
「ふふふ……。あまり、暴れ過ぎるでないぞ?ガイル殿!オールド帝国との同盟、謹んでお受けいたしましょう。ただし!ジャショウ達を、お貸しするのは、一月の間とさせて頂きたい」
「うむ、分かった……。儂も少し、熱くなり過ぎた!子供を、前線に立たせるは、恥ずべき事だ。その条件で、同盟を結ぶとしよう!」
やれやれ……。
魔族の先兵を倒し、前線を下げ、オールド帝国の、安全を確保する。
その間、レーザル聖帝国が、勇者の育成をすると……。
時間が必要だな……。
久々に、少し本気で、暴れてみるか……。




