閑話 これが、俺の役目……。
黄泉の国……。
少年は、岩の影から、その地獄を覗く。
「ここが、黄泉の国かぁ」
「そうじゃ!我が国に、何用じゃ?」
女の声……。
少年の白い手を、醜く荒れた手が、黄泉の国へと引きずり込む。
「わわわっ!」
神々を産みし女神……。
今は、死に侵され、亡者と成った女。
イザナミノミコト……。
少年は、満面の笑顔で、
「皆を、殺さないで下さい!」
「駄目じゃ……。人の死は、理である」
「でも、沢山殺し過ぎです!」
イザナミノミコトは、少年の顔を、直視出来ない。
穢れない顔だ。
決して、顔を見せては為らぬ……。
私を、恐れるであろう。あの男の様に、最愛の男だったと言うのに、自分を化け物だと言って、逃げたあの男の様に……。
それでも、少年は、イザナミノミコトの、両肩を掴み、
「命は、繋がなくちゃ成らないのです!無暗に、殺すべきではありません!」
「あっ……」
少年に、顔を見られた……。
恐れられる……。
気持ち悪がれる……。
しかし、少年は、きょとんとした顔で、
「貴方も、病気だったんですか?苦しかったですね?辛かったですね?」
イザナミノミコトを、優しく抱きしめる。
「あっ……」
再び、イザナミノミコトの口から、甘い吐息が零れる。
少年は、ニッコリ笑い、
「僕が、治してあげます!」
温かい光……。
この身が焼けそうだ……。
イザナミノミコトは、慌て、少年を突き放す。
顔の腫れものが消えた?
醜く腐った体が、昔の様に……!
少年は、満面の笑みで、
「やっぱり、綺麗な人ですね♪」
私の、望む言葉を、かけてくれる。
あの男とは違う……!
イザナミノミコトは、少年の手を、強く握る。
「もう、人を、多く殺さないでやる……。しかし、お前は、黄泉の国に入ったのだ!一生、私の側に居るんだよ!」
「でも、僕は、天照様を、お守りしないと」
「その、天照に、命令されたんだろう?黄泉の国に行けと!お前は、人柱にされたんだよ!もう、帰る場所など無い!私が、お前の、帰る場所に成ってやる!もう、人も、多く殺さない!だから……」
イザナミノミコトの涙……。
少年は、優しく拭う。
「一人で、寂しかったんですね……。分かりました……。僕で良いなら、一緒に居ます!」
「本当かい?」
「はい!」
イザナミノミコトは、少年と体を重ねる……。
何十年ぶりか……?
何百年ぶりか……?
温かな涙を流す……。
少年は、優しく笑い、
「これで、良かったのですよね……?」
誰に問い掛けるのでも無く、静かに呟いた……。




