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天翔雲流  作者: NOISE
神々の願い
1369/1794

閑話 これが、俺の役目……。

 黄泉の国……。

 少年は、岩の影から、その地獄を覗く。

「ここが、黄泉の国かぁ」

「そうじゃ!我が国に、何用じゃ?」

 女の声……。

 少年の白い手を、醜く荒れた手が、黄泉の国へと引きずり込む。

「わわわっ!」

 神々を産みし女神……。

 今は、死に侵され、亡者と成った女。

 イザナミノミコト……。

 少年は、満面の笑顔で、

「皆を、殺さないで下さい!」

「駄目じゃ……。人の死は、理である」

「でも、沢山殺し過ぎです!」

 イザナミノミコトは、少年の顔を、直視出来ない。

 穢れない顔だ。

 決して、顔を見せては為らぬ……。

 私を、恐れるであろう。あの男の様に、最愛の男だったと言うのに、自分を化け物だと言って、逃げたあの男の様に……。

 それでも、少年は、イザナミノミコトの、両肩を掴み、

「命は、繋がなくちゃ成らないのです!無暗に、殺すべきではありません!」

「あっ……」

 少年に、顔を見られた……。

 恐れられる……。

 気持ち悪がれる……。

 しかし、少年は、きょとんとした顔で、

「貴方も、病気だったんですか?苦しかったですね?辛かったですね?」

 イザナミノミコトを、優しく抱きしめる。

「あっ……」

 再び、イザナミノミコトの口から、甘い吐息が零れる。

 少年は、ニッコリ笑い、

「僕が、治してあげます!」

 温かい光……。

 この身が焼けそうだ……。

 イザナミノミコトは、慌て、少年を突き放す。

 顔の腫れものが消えた?

 醜く腐った体が、昔の様に……!

 少年は、満面の笑みで、

「やっぱり、綺麗な人ですね♪」

 私の、望む言葉を、かけてくれる。

 あの男とは違う……!

 イザナミノミコトは、少年の手を、強く握る。

「もう、人を、多く殺さないでやる……。しかし、お前は、黄泉の国に入ったのだ!一生、私の側に居るんだよ!」

「でも、僕は、天照様を、お守りしないと」

「その、天照に、命令されたんだろう?黄泉の国に行けと!お前は、人柱にされたんだよ!もう、帰る場所など無い!私が、お前の、帰る場所に成ってやる!もう、人も、多く殺さない!だから……」

 イザナミノミコトの涙……。

 少年は、優しく拭う。

「一人で、寂しかったんですね……。分かりました……。僕で良いなら、一緒に居ます!」

「本当かい?」

「はい!」

 イザナミノミコトは、少年と体を重ねる……。

 何十年ぶりか……?

 何百年ぶりか……?

 温かな涙を流す……。

 少年は、優しく笑い、

「これで、良かったのですよね……?」

 誰に問い掛けるのでも無く、静かに呟いた……。


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