白銀の牙5
グレイアックスとは違い、白銀の牙は、見ていて、ハラハラする。
シーフのキスケは、注意力散漫だし。リーダーのロズワールは、シーフの前を、歩く事もある。
何事も、無ければ良いが……。
しかし、六階層……。
案の定、事件が起こる。
残り四階層と、気を抜いたロズワールが、キスケの前に立ち、あろう事か、不用心に、壁にもたれ掛かる。
言わんこっちゃない。
疲れが出て来たのだろう。
冒険者として、あるまじき行為だ。
そして、不運は不運を呼ぶ。
その壁に、トラップが、設置されていたのだ……。
俺達の立っていた場所は、足場を失う。
落とし穴か!?
勘弁してくれよ……。
最悪だ……。
既に天井は、閉ざされている……。
正方形の、出口の無い部屋……。
ただただ、呆然とする。
こうなったら、力を隠さず、天井をぶち破って、脱出するか?
いや……。
この部屋にも、ダンジョン特有の、明かりが設置されている。
と言う事は、ここも、ダンジョンのフロアだと言う事だ。
この前読んだ本によると、ダンジョン内は、どんな場所でも、必ず、脱出経路が、存在するらしい。
ダンジョンとは、そう言うモノらしい。
生かさず殺さず、人の生気を、奪う様に出来ている。
仕方が無い……。
その本の言葉を、信じて見るとしよう。
しかし、
「キスケ!お前シーフだろう?罠が有るなら、教えろよ!!」
「ふざけるな!勝手に、俺の前を歩いた、ロズワールが、いけないんだろう?何で、不用心に、壁なんかに、寄りかかったんだよ!!」
大喧嘩だ……。
ゴットン達は、白けた顔で、それを見ている。
一頻り、喧嘩し終え、
「止めよう。不毛だ……。誰が悪いとか、言っている場合じゃ無い!」
「そ、そうだな!どうにか、ここから、抜け出さなくっちゃ!」
少しは、冷静に成ったのか?
ロズワールは、ふっと息を吐き、
「ジャショウ君、何か、案は無いのかい?」
「はあ……。俺は、雑用ですから……」
「さっきの言葉は、謝罪する!今は、皆の知恵が、必要なんだ!!」
調子の良い奴だなぁ……。
悪い奴では無いのだが……。
軽薄で、プライドが高すぎる。
それでも、頭を下げられたのなら、仕方が無いか……。
「取り敢えず、この部屋を見渡して、思った事がありますが……。正直、希望と絶望が、混在しております」
「希望と絶望……?と、兎に角、話してくれ!」
「良いですか?あのトラップにかかったのが、俺達だけだとは、考えにくいのです。それなのに、周りを見て、死体が一個もありません」
「そ、そう言えば!と言う事は、どっかに、隠し通路が!!」
「落ち着いて下さい……。こんなトラップがあるのだったら、ギルドで、話題に成るでしょう……。しかし、そんな話は、聞いた事が無い。恐らく、この部屋からは、抜け出せる事でしょう……。しかし、その先に、何があるかは、分からないと言う事です」
「そ、それは……」
「少なくとも、ここ数十年位か?このトラップにかかって、生きて帰って来た者が、居ないと言う事です。ただ……」
「ただ……?」
「ダンジョンマスターと言う本は、ご存知ですよね?その中の一文に、例え、どんな難解なダンジョンでも、脱出路は存在すると、書かれておりました。後は、その希望に、縋るしかありません」
皆、黙り込んでしまった……。
さてと……。
白銀の牙……。
ここが、踏ん張り時だぞ。
覚悟を決めて、前に進む勇気は、有るのだろうか……?




