第一歩
「おい!手前、面を貸せ!」
年長の少年か……。
朝から、面倒臭いな……。
俺を守る様に、小さな子供達が、少年を睨む。
少年は、苛立ち気味に、
「ガキ共は、すっこんでろ!!」
怒鳴り散らす。
俺は、ウンザリした顔で、
「おい……。小さな子達に、当たるんじゃねえ……。で、何の用だよ?」
「テメエ!!」
少年の拳が、俺の頬に当たる!
やれやれ、手を上げたか……。
しかし、俺は、微動だにせず、
「気が済んだかよ?」
「テメエ……!出て行けよ!さっさと、出て行けよ!!」
出て行きたいのは、山々なんだが……。
やれやれ……。
他の子達が、トリナを呼んで来てしまった様だ。
トリナは、静かに怒り、
「ガイア君!貴方、何をやっているのですか!」
「ト、トリナシスター……。俺は、この孤児院を思って!」
「暴力を振るう、理由に成っていません!親の無い子を捨てる事が、正しい事だと、思っているのですか?」
「畜生……。畜生!畜生!畜生!!こんな、貧乏孤児院に、これ以上、子供を養う力なんて、有る訳無いだろうが!!シスターこそ、現実を見ろよ!!」
「それでも私は、誰一人、見捨てません!!」
「糞、糞!糞ぉ!!」
少年は、走り去って行ってしまった。
彼の言う事の方が、正しい……。
理想だけでは、腹は膨れぬ。
さてと……。
どうにかしなくてはな……。
俺は、冒険者と成るべく、白狼亭へと向かった。
白狼亭の冒険者パーティー……。
グレイアックスと言う者達が、雑用を探しているらしい。
クルセット教会から、近い所に、白狼亭は在る。
トリナは、引き留めてくれたが、今の現状、誰かが、金を稼ぐ必要が有る。
俺は、白狼亭の扉を開け、冒険者達を、見回す。
成る程な……。
ピンからキリと、言った処だが、それなりの猛者が、居る様だ。
冒険者達は、俺を値踏みする様に見ている。
そこに、ふくよかな女性が、俺を驚かせまいと、優しい笑顔で、目線を合わせる。
「お嬢ちゃん、誰か探しているのかい?」
「お嬢ちゃん……?俺は、男なんだが……」
「あれまぁ!顔が、包帯で隠れているから、おばちゃん、間違えちゃったよ!」
「「「がははは!!」」」
失礼な奴等だ……。
だが、もう、慣れている。
俺は、ため息をつき、
「門番のアミューさんから、このギルドの、グレイアックスって言うパーティーが、雑用を募集しているって聞いて……。紹介状も、持って来ました」
そう言い、手紙を、女性に渡す。
「おやまぁ、アミューちゃんからの、紹介かい?モグ!あんたに可愛いお客さんだよ!」
「おう!」
巨大なアックスを背負った、筋骨隆々の男が、俺の下に現る。
悪い匂いはしない。
俺は、モグと呼ばれた男を、真っ直ぐ見詰め、
「これが、アミューさんからの手紙です」
「愚妹の紹介か……」
モグは、俺から手紙を受け取り、目を通す。
一通り読み終え、モグは、俺を、まじまじと見る。
「お前、冒険者に成りたいのか?」
「はい」
「けど、お前の歳じゃ、まだ成れない」
「はい。だから、雑用として、雇って下さい」
「ふ~む……。お前、かなり強いだろう?何度も、死線を潜り抜けて来た、男の目だ!」
「身を守る術なら、知っているつもりです」
「それでも、今出来る事は、雑用だぞ?分かっているな?」
「はい」
そこまで言って、モグは、ふぅっと、息を吐く。
「坊主……。ジャショウと言ったな?取り敢えず、俺の仲間を紹介する!そして、一か月様子を見て、お前を仲間にするか決める!それで良いな?」
「ありがとうございます!」
何とかなりそうだ……。
俺は、深々と、頭を下げる。
その頭に、大きな手が乗り、
「そう、緊張するな!皆、良い奴だからな!」
「はい!」
これで、漸く、第一歩が踏み出せる。
中々、難儀なモノだ……。
ちゃっちゃと、魔王を倒せば、楽なんだがなぁ……。
今回は、縛りが多くて、面倒臭そうだ……。




