異世界食事事情
『しかし、まだ腹が膨れん……』
ユサの実による、魔力酔いは収まったが、今度は、空腹で、目が回る。
果物、数個食った位で、腹が、満たされる訳も無く……。
空腹の腹を摩り、辺りを見回す。
『兎に角、鑑定だ!』
青く光るものを、片っ端に見て回る。
あるのは、野草が多く、先ほどの様な、木の実は少ない。
体感温度的に、初夏と言ったところであろう。
自然と、野草が多くなり、木の実は限られてくる。
ナビ子曰く、ユサの実の様な、霊脈に起因してなる木の実以外は、あまり生っていないらしい。
早くも、詰んでしまったか……?
いや……。野菜の多くは、夏に生る。まだ諦める時じゃ無い!
「鑑定、してやんよ!」
コカの葉
回復系野草
苦い
蒼月草
状態異常回復
苦い
サラの草
毒回復
苦い
塩の実
地中の瘴気を吸収し、塩に変換した実。
しょっぱい
『なんか、投げやりで、稚拙な文なんですけど……。それに最後の、味についての文は、あまり意味が無いような……』
散々な結果に加え、大雑把な説明を読み、落胆する。
取り敢えず、塩の実舐めとこ……。
『レベルが低いから。レベルが低いからね』
ナビ子が、必死に弁解する。
しかし、解説が、一行って……。
『む~。なんか、ナビ子が解説すれば良いのでは……?』
あまりに、身も蓋も無い事を言い、不貞腐れ、近くにあった雑草を、力任せにむしり取る。
ピロリン
不意に脳内に、軽快な音が響き渡る。
『え?なに?』
突然の事に、辺りを見回す。
『鑑定のレベルが、上がった合図よ♪』
そう言うと、ステータス画面を見るよう、促される。
言われるまま、ステータス画面を確認すと、鑑定の欄が、LV 2に変わっていた。
気を取り直し、近くを這う、カタツムリの様な生き物を鑑定してみる。
マイマイ
地球で言うカタツムリ。
ある地域では、塩を振り、焼いて食す事がある。
美味。
生で食すと、寄生虫に侵食される危険有り。
うん。知ってた……。
どうしても、食についてレポートが出る事に、苦笑する。
しかし、寄生虫の危険性が載っていた。これは、明らかな進歩だ。
『この、食レポ、仕様?』
『ジャショウちゃん、食いしん坊でしょ?』
ナビ子の返答に、沈黙……。
『沈黙は、肯定ととらえるわ』
『む~。確かに、空腹ではあるが……』
反論しきれず、押し黙る。
その代わり、何匹かのマイマイを無言で採取しようとする。
『ジャショウちゃん。食べるの?』
『食えると、出ていたが……?』
俺は、マイマイを取る手を止め、ナビ子に聞き返す。
『触った手だけでも、寄生虫に感染することもあるわ』
ナビ子は、すごく嫌そうな声で制止する。
俺は、物欲しそうな目で、マイマイを見詰め、元の場所に戻した。
『美味と出ていたんだがな……』
『ジャショウちゃん、素直すぎ……。でも、異世界に来て最初のディナーが、マイマイって、なんか虚しいと思わない?』
ナビ子に諭され、頬を膨らませながらも、不承不承、頷く。
『じゃあ、やっぱり、オークとか言う、豚のバケモノか?』
『ジャショウちゃん。人型が食べたいの?』
『異世界転生のススメでは、所々に、うまいと出ているぞ?』
異世界転生のススメ、俺の記憶に植え付けられた知識では、最近のブームは、オークの肉を食すとある。
その肉は、上質な豚肉に似ているらしい。
『残念だけど、ここのオークは、豚の容姿であるけど、人間よりの生き物よ。食人主義なら止めないけど……』
『流石に、人は食わん……』
俺は項垂れ、ぶっきらぼうに答える。
異世界転生のススメ、まったくと言っていいほど、役に立たん……。
特殊チートスキルは、皆無。
異世界食事事情は、全然違う。
ほかの転生者の様な、社会バランスを崩す、とんても知識は生憎持ち合わせてはいない。
よく、他の転生者が造る、しょうゆとはなんだ……。調味料と言ったら、塩かみそだろ普通。(今の醤油の原型が生まれたのは1576年頃)
本日何度目かの不貞寝を決め込む。
さっき暴れた所為で、獣も寄り付かない。
森で手に入るものと言ったら、幾何かの木の実と、クソ苦い、野草のみ……。
腹が満たされない……。
『そう、不貞腐れないで。今日は、その木の実で、飢えをしのいで、明日になったら、獣を探しましょう?』
『う~。そうするしかないか……』
懐に入れた幾何の木の実。
今日のディナーは、やっぱりマイマイで、良いのでは?
後ろ髪を引かれる思いで、マイマイを見ながら、ため息をついた。




