迂闊だったが、後悔してはいない!
『なあ、魔法は?』
『う~ん。ジャショウちゃん、私がマナを注ぎ込んだだけあって、魔力も高いのよね』
『ああ。だから、魔法も教えてくれよ』
心が疼く。知らない事が多くて、目まぐるしくて、たまらない。
錬気の修行で、周りの木々が倒され、開けた大地の中心で、呼吸を整える。
錬気を練ったように、金色の魔力に、意識を集中する。
『ジャショウちゃん。魔力を練るとこまでは、出来るみたいね』
『ああ。錬気と一緒だろ?』
心が先走り、気が付けば、魔力を練っていた。
全身に黄金色の光が、包み込む。
『そう、その感じ……。でも、今はそこまで』
『なんで?』
俺は首を傾げ、聞き返す。
『もう、日が傾いてきてるわ。野営の準備をしないと……』
気が付けば、蒼天に輝いていた太陽は、西に傾きかけていた。
ふと、自分の腹がすいている事に気付き、お腹をさする。
『腹減った……』
その場にへたり込み、自分の持ち物を確認する。
しかし、ぼろきれの様な服を着ているだけで、何も持ち合わせていない……。
「無限収納!」
声を上げて、叫んでみる。
しかし何も起こらない……。
『ジャショウちゃん、ジャショウちゃん。何やってるの?』
ナビ子は、怪訝そうに、声を潜めて聞いてくる。
『いや。異世界転生お決まりの、収納ボックスとかあって、食べ物が入っているかと……』
『無いから……。初期装備、布の服だけだから……』
ナビ子の言葉に、愕然とする。
『え?お金とか無い感じ?』
『無い感じ……』
沈黙する……。
『なんで?某ファンタジーの勇者だって、100Gと、ヒノキの棒を貰っているぞ?』
『ジャショウちゃん。ダメ!それ以上、言っちゃ……』
ナビ子に制され、口をつぐむ……。
まあ、念話なんだが……。
『ジャショウちゃん落ち着いて、人生イージーモードなんてありえないわ』
『はぁ……。これでは、街にも入れない』
落胆し、膝をつく。その間も、腹の虫の音が鳴っている。
『大丈夫。私と、スキルがあるわ』
『スキル?』
空を見上げ、ためため息をつく。
まるで、歩き疲れて、ぐずる駄々っ子の様に、その場にへたり込む。
『そうよ!スキルを使うの♪』
『うん……。なんの?』
『まずは、索敵』
言われるままに、索敵を行使する。
辺りが灰色になり、青い光と、赤い光の靄が浮かび上がる。
『どう?青い光と赤い光が浮かんだ?』
ナビ子に言われて、頷く。
『そう、その青いのが味方や、食す事の出来るもの。赤は、敵や毒のあるものよ』
『うん……。じゃあ、動いている者は無いから、この青い物の処に行けば、食べ物が手に入ると……?』
腰を上げ、索敵で青く光ったところに、探索してみる。
『ジャショウちゃん。そんなに不用心に近づくと、もしかしたら、赤いのが、止まっている敵の可能性もあるわ』
ナビ子は、不安そうに呟く。
『大丈夫……。敵の気配は感じられない。別に不用心に移動している訳じゃないさ』
無造作に歩いている様で、足音が出ていない。
その足さばきには無駄が無く、全身に目がある様に、気配を感じ取っている。
スキルでは、現す事の出来ない、武人特有の心得だ。
あれだ……。
俺が戦士だったのは、嘘じゃ無い様だ。
体に染みついている、戦いの心得は、衰えていない。
自然な動きにも、我ながら、無駄が無いと思える。
『すご~い。こんな森の中でも、足音一つ、立てないで歩いてる』
『いや、敵が出てくるんだったら、さっきからあんなに騒いでいたんだ、とっくに出てきていると思うぞ……?』
今更、気配を消して移動することに、若干の疑問を感じながらも、体に身に付いた癖で、ナンバ歩きで進み、辺りの気配に注意を払う。
森は静寂を取り戻し、自然と、鳥たちも集まってきている。
鳥の囀る声に耳を傾け、足を止める。
森は生きている。自分の力に酔って、壊してしまった事に、若干の後ろめたさを感じ、手を合わせる。
再び歩みだし、青い光に近づいていく。
そこには、木の枝にたわわになる、木の実があった。
『これは……?』
『鑑定して御覧なさい?』
言われた通りに、木の実を一つもぎ取り、鑑定をする。
ユサの実
地球で言う、桃に似た食べ物
うまし
とても簡単な説明文ありがとうございます。
『LV1だと、そんなものね』
ナビ子の回答を横に、もぎ取った木の実を若干躊躇しながらも、恐る恐る口にしてみる。
「うまい!」
片手で、ユサの実を口にし、もう片手で、木の実をもぎ取る。
口に広がる甘い果汁に、舌鼓をし、夢中でかぶりついていく。
空腹は、何物にも勝る調味料と言うが、普通にうまい。
がむしゃらに食べていたが、4・5個食べたのち、体に異変が現れた。
「気持ち悪い……」
視界が歪む。毒は無いはずだ……。
索敵では、青だった。鑑定にも、毒とは出ていなかった……。
おかしい……。
『ナビ子これは……?』
立ち眩みを覚え、その場にうずくまる。
『あちゃ~。魔力酔いね……。ユサの実は、霊脈に沿って木がなり、その霊力を蓄えるの。だからその実には、強い魔力を蓄えているのよ』
今更言われても、遅い気がする。食べる前に言ってほしかった……。
胸焼けして、気分の悪いのを耐え、嗚咽を漏らす。
『けど、鑑定にはそんな事、書いてなかったぞ……?』
『鑑定、LV1だから、仕方ないよ。もっと、用心しないと、スキルも万能じゃないわ』
慢心していた……。
艦〇れの、赤い人の様だ……。
スキルは万能じゃない……。
何事も、経験が大事だという事か……。
木の実を見詰め、何個か懐にしまう。
『ジャショウちゃん。こんな目にあっても、まだ食べる気?』
ナビ子の呆れた声……。
『何事も、用法用量を守れば、問題あるまい』
『まあ、そうね……。で、実際は?』
『うまし!』
力強く頷き、懐に入れた木の実を、ほくほく気分でさする。
『しかし、鑑定のスキルもレベルが低いと、今一、実用に乏しいな……』
『まあ、色んなものを鑑定して、レベルを上げるしかないわね』
前途多難な冒険が、幕を上げた。




