間違いねえ。こいつらは、俺達の英雄だ!
「しっかし、なんちゅうモノを、持ってくるんだ!」
半ば、呆れながら、おっさんはビックボアを触る。
「なあ兄貴!毛皮。毛皮、家にも回してくれよ!」
「ああ……。親父に言っておく……」
「昨日、ジャショウが持ってきてくれた毛皮、家の兄貴ったら、夢中になって新作作っているんだぜ」
「だろうな……。職人にとって、これ程の素材前にしたら……」
ビックボアを前に、俺より二つか三つ年上だろうか……。
少年が、目を輝かして、おっさんに歎願している。
この少年。靴屋の兄ちゃんの弟らしい。
何時もここで、靴磨きをしている。
「なあ、この肉、焼いてくれよ!」
一同から、声が上がる。
おっさんは頭を掻き、難しい顔で、ビックボアを見上げる。
「これをかあ……」
「なあ、良いだろう?」
「肉って言うのはな、少し寝かした方が、美味いんだ……。けど、こんな鮮度の良い肉も……」
おっさんは、物々しい包丁を取り出し、ビックボアに向ける。
しかし、その手は止まり。
深いため息を吐いた。
「だめだ!毛皮は、切れねえ!それに、少しでも傷つけたら、親父にどやされる!」
「はぁ……。おやっさん、おっかねえしなぁ」
周りから、失笑が漏れる。
「けれど此処なら!」
おっさんの手が、ビックボアの口に触れる。
口が大きく開かれ、真っ赤な舌が覗かせた。
「舌だ!最高の珍味だ!」
今度は、感嘆。
二つの舌が、斬り落とされる。
サクヤよりも大きい。
手際よく、調理されていく。
「タレより塩の方が良いんだが……」
「おっさん!塩の実!」
俺は、すかさず、懐から塩の実を取り出す。
さっき、ビックボアの血抜きをしている途中、採取していたんだ。
おっさんは、にかっと笑い、塩の実を受け取った。
おっさんが、調理をしている間、他の戦利品で盛り上がった。
「嬢ちゃんそれは?」
「アヤの実なんよ♪お爺ちゃんとお婆ちゃんにあげるんよ♪」
「こりゃまた、でっかい……」
「こっちには、薬草が……」
「はい!それは、ギルドを通して、売りたいと思いす」
「良いコカの葉だ……。こうしちゃいられねえ!帰ったら、錬金の準備だ!」
「こっちには、鉄鉱石が……。しかも純度が高い!?」
「武器屋さんに持っていくんよ♪」
「ええ。約束しましたから」
「家か!早速、炉に火を入れねえと!」
「か~~~。他の冒険者なんかに、金かけらんね~!」
「ああ!こんな良いもん見せられたら、職人の血が騒ぐってもんよ!」
俺達は、恥ずかしさと誇らしさで、胸がいっぱいだ。
サクヤの尻尾が、ピコピコ動いている。
「な、なあ……」
不意に、声が上がる。
俺達は、首を傾げ、声の方を向く。
「なあ、あんた達、もしかして、小さな女神様じゃないのか?」
前に出た男が、おずおずと尋ねて来る。
小さな女神様?
不思議そうな顔をする俺達に、
「俺は、果物屋やっている処の、小倅で……」
「こせがれ?」
「ああ。サクヤ。息子って事だよ」
「お爺ちゃんとお婆ちゃんの子供なん?」
サクヤが、前に出る。
「ああ。家のお袋、ずっと立てなかったんだ」
「ああ。それが、昨日帰ったら、ぴんぴんしてたなあ……」
「ああ。どうしたのか?って聞いたら、女神様が、治してくれたんだって……」
「ああ。みんなビックリしてたなあ」
「小さな女神様……。みんなが、願ってくれたおかげで治してもらえましたって……」
「あれってまさか……」
一同の目が、シャルとサクヤに向く。
俺は、頬を掻き、乾いた笑いを上げる。
「お婆ちゃん無理していないん?」
「まだ、完治している訳では無いんですから」
シャルとサクヤは、心配そうに男を見る。
「やっぱり……」
「女神様……」
「女神様だ……」
やばい、話が変な方向に……。
「お前達!力の安売りは良く無いぞ!」
おっさんが、真剣な声で、諫める。
安売り……。
違う!
俺は、首を横に振る。
「違うよ……。おっさん」
「そうなん!みんな良くしてくれたんよ!」
「そうね。みんなから貰った優しさを、私達は、ただちょっと、お返ししただけです!」
「そうなんよ!みんな、お婆ちゃんの事、心配していたんよ!」
「私達は、冒険者です!与えらえた対価、しっかり返して……。これだけじゃ、足りないかもしれません……。それでも……!」
シャルとサクヤの真剣な目……。
一同は、黙り込む。
果物屋のおっさんに至っては、涙している。
「だ、そうだ……。おっさん」
俺は、やれやれと笑い、おっさんを見る。
おっさんは、目を見開き、笑いだす。
「くくく……。お前達!この小さな冒険者達は、これだけ俺達に良くしてくれて、まだ足りないという……。昨日から俺達は、何度驚かされた?何度笑わしてもらった?間違いねえ。こいつらは、俺達の英雄だ!」
一斉に、歓声が沸き起こる。
俺達は、唖然とし、周りの人達を見回す。
また、差し入れの山……。
本当……。
何時になったら、返しきれるんだ?
この人達に貰った優しさは……。




