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天翔雲流  作者: NOISE
プロローグ
1/1790

崩れ行く、砂塵の如く……。

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

 沙羅双樹の華の色、盛者必衰の理を現す。

 驕れる人も久しからず。

 ただ、春の夜の夢の如し……。

 猛き者も遂には滅びぬ……。

 ひとえに風の前の塵に同じ……。



 全ては、幻だったか……?

 お館様の治世も……。

 水無月の栄華も……。

 燃え盛る館……。

 無数の屍……。

 過行く幻影が、俺に、怒りを呼び起こす!

 死、死、死!!

 武田の、敵陣真っ只中。

 俺は、咆哮を上げる!!

 鬼子と呼ばれた……。

 常人から頭一つ飛び抜けた巨躯。岩を穿つ膂力。風よりも早く駆ける脚。

 見渡す限り、己と渡り合える様な者は一人もいなかった。

 そんな俺は、親にさえ恐れられ、捨てられた。

 そんな俺を拾ってくれたのは、水無月家当主、水無月勝家様だった……。

 五つの時だ……。

 親の顔なんて、覚えちゃいない。

 ただ、あの日、武蔵の山で、途方に暮れる俺に、柔和な笑みで、手を差し伸べてくれた、お館様の顔は、今でもはっきり覚えている。

―清濁併せ持つ、誠美しい童じゃ。親がおらぬなら、儂等について来ると良い。主、名は?―

 答えられなかった……。

 答えられる筈が無い。

 鬼子と呼ばれ、恐れられていた俺に、名など、与えられていなかったからだ。

 俯く俺に、お館様は笑って、

―為らば、邪聖ジャショウと名乗ると良い!安直ではあるが、主の魂に、相応しい名じゃ―

 あの日俺は、初めて、人の温もりを知った。

 それなのに……!

「信虎!!出てきやがれ!!武蔵の大鬼が直々に、主の腐った臓腑を、喰らってやるぞ!!」

 騎兵の突進!

 千本槍!

 無数の矢の雨!

 そんなものが……!

 そんなものが、俺に通用すると思っているのか!!

 殴り、殺して、叫んで、吠えた!!

 無数の血の華を咲かせ、俺は、鬼へと還る。

 ただ一つ、お館様から貰った、〝邪聖〟と言う名を残して……。

 俺は……。

 俺は……!!

「出て来い!信虎!!俺と闘え!!」

 急に、静寂が訪れる……。

 風向きが……!

 武田の騎兵が、退いて行く……!

 武田の弓隊!

 馬鹿が?

 この俺が、弓ごときで、射殺せるとでも思うているのか?

 喰らい尽くしてやる!!

 俺は、凶悪な笑みで、走り出す!!

 無手の極意、とくと味わうが良い!!

 が……!!

「後方から、馬の足音……?」

 挟撃か……?

 面白い!!

 なれば、盾として、つこうてやるまで!!

 急旋回!!

 右手を伸ばす!!

 しかし、そこに居たのは……!!

「げ、源三郎様!?」

 数騎の供回りを連れ、般若の形相で、俺に加勢しようとする、水無月家宰相、原田源三郎の姿が!!

「くっ!?来るな!!来るな、親父!!」

 もう、誰も、殺させねえ!!

 時が、ゆっくりと……。

 ゆっくりと流れる……!

 一滴の、雨水。

 体が、熱く燃え上がる!!

「う、うおおおおおおお!!」

 世界が、白に包まれる!!

 轟音!!

 俺は……。

 結局俺は、誰も救えないのかよ……?


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