プロローグ
狂った幻想を置き去りにして、僕は、僕らは、そう、私たちは、歩いてきた。
僕はそのままじゃいられなかった。
私はそのままでいたかった。
都合がいい。
都合が悪い。
なんて不条理だ。
理不尽ね。
許せない。
認可をちょうだい。
僕はきっと空を飛べるはず。
私から逃げることなんて出来やしない。
「くそったれ!」
それが僕らの口癖だった。表面的にはそぐわない二人だったけれど、根っこの部分ではどこか似ているところがあったらしい。そうでなければ「くそったれ」なんて口癖は揃って出ないだろうし、そもそも二人だけの時間を共に過ごそうだなんて思わないだろう。僕らは、僕らのティーンエイジを比較的長い時間、望む望まないにかかわらず、共有していたのだ。「まるで泥船に乗り合わせたみたいに」
「でも、孤独じゃなかった」
そう、間違いじゃなかった。私たちが同じロックミュージックを聞いて、同じベッドで寝転んで、同じ天井を見上げていたのは決して、間違いじゃなかった。例え癒えようのない傷を付けられ、それを一生引きずって歩くことになろうとも。私に後悔はないのだ。激しい怒りや哀しみ、満たされようのない渇きに私の体の中は何度も炎症を起こし、何度も嘔吐し悶え苦しんだか分からないくらいだけれど、私に一切の後悔はないのだ。なぜなら、孤独じゃなかったから。私は一人じゃなかったから。私はとても淋しがり屋で、酷く泣き虫でもあるから。「月の下では一人ではいられない」
僕は言う。「退屈だから? 静かな夜は」
私は言う。「二人だって退屈、友達なんかじゃないんだから、当り前よ」
友達なんかじゃなかった。僕は、僕らは、そう、私たちは、白勝ちの桜錦が孤独に泳いでいる金魚鉢を挟んでほとんど同じ存在。リフレクション。
久しぶりに出会えたから、夢中で抗った時代を思い出してみたんだ。
月が水面に映っている。白勝ちの桜錦は宇宙を泳いでいる。