6.買い被りの言葉
昔、妹と喧嘩ばかりしていた時期があった。小さい頃も喧嘩ばかりだったが、そういうのとは違う本気の嫌悪感をお互いに抱いていた時期があった。
確か二人とも中学生の頃だったと思うが、あの時は何とか仲直りできた。
「どうやって仲直りしたんだっけ……」
帰り道、俺はそう呟いた。妹と瑠梨子ちゃんを重ね、あの仲直りに今の状況を打開するヒントがねえかと思っていた。
でも一年と少し前の出来事を忘れてしまった俺は、そのあるかもしれないヒントを思い出せなかった。
不意にあいつが言っていた言葉を思い出した。
『君は家族との記憶を忘れたりなんかしないんだろうな』
買い被りだ。あいつはどうも俺を高く評価している節があるが、そんなことはありえない。
人の気持ちを慮るあいつが、俺より下なんてことはありえねえ。
あいつはきっと、自分を誰かより下に置いて、安心したいだけなんだろう。
なにはともあれ、家族との思い出を忘れた俺は、何をする気にもなれず、ただとぼとぼと歩いた。
どこかで先に帰っている瑠梨子ちゃんと会うかもしれないと思ったが、瑠梨子ちゃんの姿はどこにもなかった。