5.虚しい言葉
放課後になり、俺はそそくさと帰る準備を始めた。早く退散しないと、また憐みの視線や言葉を向けられてしまう。
「あれ、もう帰るの?」
しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、カエデが声をかけてきた。
「ああ、特に用事もないからな」
「部活とか始めないの?」
「部活か……」
小学生の頃は野球少年だった。でも、中学に入ってからはやめてしまいそれ以降部活に入ったことはなかった。
「運動神経良さそうだし、なんでもできそうだけどね」
「俺の一存では決められんさ」
部活動を始めるということは、お金を使うということだ。ユニフォームや移動費、特に移動費はこんな田舎では地区大会ですら遠出しないといけなくなるから結構な金額になるだろう。
そんなものを、三河の叔母さん叔父さんに要求する気にはなれなかった。
「カエデはなにか部活やってのか?」
暗い話をする前に、俺は戦略的撤退をした。なんかこの切り返し方、あいつみたいだな。
「私はミス研だよ。結構面白いしおすすめするよ」
確かに、文化系ならお金もかからないかもしれない。
「ま、考えとくさ」
俺はそう言って教室を出た。
廊下は木製の建物特有の木の匂いが強かった。様相も前の学校と違い、俺はいつも廊下に出ると違う世界に来てしまったような錯覚を起こす。
でも、ここはただの学校で、前に住んでいた場所には四時間で行ける距離だ。そんな錯覚は寂しさの現れなのだと思う。
軋む床を踏みつけながら出口を目指していると、瑠梨子ちゃんがいた。
瑠梨子ちゃんは長い栗色の髪の先をくるくるといじりながら、物憂げな顔をしていた。その栗色の髪は地毛ではなく、明らかに染めたものだった。田舎でそんな不良行為をする珍しい子は彼女だけで、はっきり言うとかなり浮いていた。
気難しいその性格も相まって、瑠梨子ちゃんは俺と同じようにクラスでは孤立しているみたいだった。
「よう、瑠梨子ちゃん。奇遇だな、一緒に帰らねえか?」
俺は意を決して声をかけた。同じ学校で、同じクラスなんだから奇遇も何もないとは思ったが、咄嗟に浮かぶのはそれくらいしかなかった。
瑠梨子ちゃんは俺を一瞥すると、冷たい目を向けてから前を向いた。有体に言うと無視された。
この三か月、俺たちはこんな感じだ。俺は無視され空回りを続けている。人付き合いがここまで上手くいかないなんて初めてのことだから、俺はずっと戸惑っている。
「ああ、忙しいのね。じゃあ先に帰るからよ」
俺は精一杯の愛想笑い浮かべてそう言ったが、結局瑠梨子ちゃんは俺を見なかったから、愛想笑いは無駄だったな。
深いため息とともに下駄箱に手を伸ばした。その時、瑠梨子ちゃんの下駄箱が目に入った。その中には靴が入っておらず、空っぽだった。
気づかない内に帰ってしまったのだろうか?だとしたら、特に用事もないのに断れた俺のメンタルはずたぼろだった。