3.クラスメイトの言葉
別に抱えている問題は留梨子ちゃんとの関係性だけではなかった。転校した学校でも問題は起きていた。
でもそれはいじめられているとか、友達ができないとかの類ではなかった。
むしろ逆だ。皆俺に優しすぎる。それの何が問題なのかと疑問に思うかもしれないが、俺はそういう割れ物を扱うみたいに接されるのが一番苦手だった。
原因は知っている。皆が俺の境遇を知っていることだ。転校する前の日、担任教師が話したらしい。俺は家族を全員交通事故で亡くした可哀想な奴だと話した。その結果俺に投げかけられる言葉は、心配している台詞ばかりだ。
しかも田舎の学校だから一学年一クラスしかなく、人数も少ないから全校生徒がそのことを知っている。俺は望んじゃいないのに学校関係者全員から腫れものに触れるように扱われている。全く持って生きづらい……。
そしてこんな風に憤り、会話をろくに出来ないでいると余計に心配される始末だ。悪循環が俺を殺しかけていた。
だが、こんな弱音を吐いていたら、あいつにも心配されそうだ。
梨花なら困る俺を見てけらけらと笑うだろうな。
「あの、大丈夫?」
机につっぷして悩んでいると声をかけられた。
顔を起こすとそこには紫葉カエデがいた。
彼女はこのクラスの委員長であり、新参者の俺によく話しかけてくれる。
まあ、そんな優しさも今の俺には毒でしかないんだが……。
「ん、大丈夫。ちょっと眠いだけだ」
「昨日眠れなかったの?」
確かに昨日はよく眠れなかった。というかここ三か月熟睡というものをしていない。枕が変わったせいだ。
こっちに引っ越してくるとき、自分の荷物は全て捨ててしまった。捨てた後でお気に入りの枕を捨ててしまったと知った。
でも、枕だけを持って三河家に来たらドン引きされただろうから、逆に良かった。
「眠る前にスマホの画面とか見ると眠れなくなっちゃうんだって」
カエデは得意気に胸を張ってそう言った。
「生憎そういうもんは持ってない」
俺は自分の荷物を全て捨てた。それは携帯電話も例外じゃない。
俺がスマホを持っていないことを知ると、カエデは信じられないと言った表情をした。こういう田舎でも、持っているのが当たり前の時代なんだな。
「なに考えてるの?」
「いや、ジョブズのじいさんはすげえなと思ってよ」
カエデは首を傾げてそう言った。スマホ信者なのにスティーブ・ジョブズは知らないのか……。
カエデは俺が何を考えているのか考えているみたいだ。初めて会ったときは、カエデは梨花に似ていると思った。特に笑顔はそっくりだった。
でも、カエデは梨花みたいに人の考えは読めなかった。ま、あんな風に人の全てを見透かすように生きているのは疲れるだろうから、それでいいんだが。
俺はカエデ及び全てのクラスメイトから注がれている、生易しい視線から逃れるように顔を沈めた。