16.答え合わせの言葉
放課後、俺はカエデに連れられて二度目の部活見学に来ていた。
今日は部長も来ていなくて、ほこりまみれの部室には俺とカエデしかいなかった。カエデは日課だという本棚の整理をしている。俺は本棚の片隅にあった『名探偵コナン』を読んで時間を潰している。
「どう、部活には入ってくれるの?」
「うーん、どうだろうまだ悩んでる。そもそもよお、この部活って何が目的なんだ?」
「ただの同好会だよ。好きなものが同じ人で集まって、楽しくお喋りするんだよ」
俺は悩んでいた。俺の居場所を作ろうとしてくれているカエデには感謝しているが、正直そこまでミステリーが好きではない俺が入るのはお門違いだろう。
「そういえばさ、響くんは瑠梨子ちゃんのこと、なにも聞かないんだね」
カエデは手を止めて、背中を向けたままそう言った。
「一緒に住んでるんでしょ?気になったりしないの?」
「嫌われてるからな。俺からはあまり関わらないようにしてる」
漫画を一ページ捲り、俺は言った。カエデは背中を向けたまま、質問した。
「あの子嫌な子よ。関わらない方がいい」
今まで聞いたことのない、棘のある言い方だった。
「あの子自分のお兄さんのこと悪く言ったのよ。良い人だったのに、そんなのあの子が一番分かっているはずなのに……」
カエデは手を握りしめていた。もしも少女漫画の世界なら、ハンカチを齧ってそうだ。
「響くんって響助さんのいとこなんでしょ?じゃあ、響助さんのこと色々知ってるんじゃない?」
俺は思い出してみた。小さいころに会った彼のことを。けれど、記憶は曖昧で彼の人柄まで思い出すことは出来なかった。
だから俺は聞いた。三河響助という人間が何をしたのか。
カエデは嬉しそうに、楽しそうに語りだした。
響助は足が速かった。だからどんな場所にでも早く現れて、人を救った。頭もいいからどんな痕跡も見逃さず、事件を解決した。
それは英雄譚のように華々しく、冒険譚のように輝かしいものだった。
彼はヒーローだったのだ。この町で、この学校で多くの人を救ってきた。そんな話をどこかで聞いたような気がしたが、それとは似て非なるものだろう。
俺はヒーローのふりをした悪人だったから。妹を殺そうとした兄が、ヒーローなはずはないのだから。
「そうよ。まさに先輩はヒーローだった。なのにあの子は、それを否定して、侮辱した。だから――一人なのよ」
カエデは振り向き、冷めた目で俺を見ながら、いやらしい笑みを浮かべた。
「どういう意味だ?」
「意味なら分かるでしょ」
そう、意味ならすぐに理解した。今俺の頭に浮かぶ答えは全てのことを説明できてしまうのだから。盗まれたオキシドール、髪を染めた瑠梨子、髪を切った瑠梨子、制服を捨てた瑠梨子、最近の謎は全て解けてしまう。
でも俺は、それは話すことを拒んだ。俺はもう、誰かに関わってしまうことを恐れていたからだ。
俺はため息をつき、漫画を閉じて立ち上がった。そしてそのまま部室を出て行った。