15.呪いの言葉
次の日、瑠梨子ちゃんはジャージで登校してきた。学校指定の、体育の時間で着るやつだ。しかし今日は体育の授業はない。
制服を捨ててしまったから、それしか着てくるものがなかったのだろう。
「女の子が制服を捨てたくなる理由ってなんだ?」
俺がカエデに聞くと、カエデは無表情のまま首を傾げた。
「分かんない。スカートの丈を短くしようとして失敗したとか?」
制服改造か……。古めかしい理由だがありそうだった。でもあんまりにもカエデがつまらなそうに言ったから、俺はその話を切り上げるしかなかった。
「そういえばあの本は読んでる?」
「読んでるよ」
「感想聞かせてね」
カエデの優しい笑みを見て、俺はあの本を断念することを諦めざるを得なくなった。これもまた呪いだろう。人からの優しさで、俺の行動は強制された。
予鈴がなって皆が席に着いた。静まり帰った教室で、みんな囚人のように同じ服を着ている。その中で彼女だけが際立っていた。
髪を栗色にし、ジャージを着て、つまらなそうな顔をしている。
彼女は孤独なんだろうか。彼女は何を求めているのだろうか。
俺には分からない。いや、分かっていても分からないふりをする。二度と出しゃばらず、二度と誰かを救おうなんて傲慢なことは考えない。
あんな過ちを二度と犯さないために、俺は自分に呪いをかける。
二度と誰にも手を伸ばさず、誰も俺の手をとらない――そんな呪いをかけた。