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今日から学校と仕事、始まります。①莞

終わりまであればいい

作者: 孤独

ガチャァッ


「ううっ、トイレ……」


学校のトイレは結構あっても、どれも整備が行き届いているというわけではない。

朝食の何かが腐っていたのか、それとも風邪の前兆か。


普段はすることのない、洋式トイレに駆け込んだ舟虎太郎ふねとらたろうであった。



小学生、中学生、1年くらいまでは大便を馬鹿にしたものだが、高校になれば大人の分別がつくというものだ。

しっかりと済ませて、ホッと安堵した息をついた。


「はぁ~……」


トイレットペーパーに手を伸ばし、紙を出す。たった一切れの紙を。

終わりまであればいい、紙がなかった。


◇    ◇



「舟の奴、遅いな。大か?」

「かもね、調子が悪そうに見えたよ」

「仕方ないな。授業に遅れるぐらいだから、置いていこうか」



舟の友達、相場竜彦あいばたつひこ四葉聖雅よつはせいが坂倉充蛇さかくらじゅうたの3人は体育の授業を終え、制服に着替えていた。


ヴィィィィッ


「ん~、坂倉くんの胸板。筋肉がついて大人っぽいねぇ」

「野獣の眼光は止めてくれ」

「バレーでスパイクを決めた時より、イキイキした顔すんな……」


最初のバイブレーションは四葉の意味深かつ、断定できるホモ談義によって感知することができなかった。


「はい、お前等席につけー。楽しい英語の時間だー」


英語の教諭が入室し、生徒達は騒ぎ慌てながら席について、体育の楽しみを一時感じながら授業に望んだ。教科書は出すも、引き出しの下から御子柴みこしばから借りた、少女マンガを片手に持って望む相場。


「漫画の時間がやってきたぜ」


勉強をするなど、学生としてあるまじき行為だと言いたげな図々しい態度で漫画を読む相場。それに天罰が下されるように鳴った、携帯。



ピリリリリリ


「おい!誰だ!携帯の電源をつけていた輩は!」

「!やべ、俺だ……」


その時、誰からの着信かは分からなかった。見向きもしなかった。

すぐに英語の教諭が相場の下へ駆け寄った。


「勉強を受けないのは構わん。しかし、周りに迷惑をかけちゃいかん。ここはバスや電車の中と思え!没収だ」

「へいへい。さーせん、漫画読んでまーす」

「それで宜しい。はい!授業を受ける気がない奴は寝てたり、漫画を読むなりしていい!そのようにこちらも評価するだけだからな!」


先生らしくない発言だが、大人となればそれが当然の対応なのだ。それでいい。こちらも、どーでも良い人間の改善など面倒だし、お前の人生なので好きにすると良い。ただし、喚く行為は無意味だぞ。

携帯をとられ、漫画を堂々と読みふける相場。


「かーっ……かーっ……」


坂倉は眠っていた。体育の疲れだけでなく、部活にバイトと大忙し。少しでも身体を休ませたかった。携帯の電源は、授業中はキチンと切っており、マナーを大切にしている。


「ふむふむ」


四葉は起きていて、真面目に授業を受けているが携帯はカバンの中。電源は入っていても、バイブレーションの音は授業中の声であまり届いていなかった。それに没収されるわけにもいかないため、随時無視していた。

つまり、



「お前等、友達だろーー!親友がトイレの中で紙がなくて困ってるんだから、助けに来いよ!!」


おい、どうするんだ!?この狭くて臭い個室の中で閉じ込められてろってか!?冗談じゃねぇぞ!トイレットペーパーだけ、それだけ持ってきてくれればいいんだ!授業、受ける気がねぇなら親友くらい助けてくれよ!



舟。トイレの中で、なぜか相場だけを酷く怨む。

授業が完全に始まり、誰も電話に出ないし、メールも空けてくれない。



「わはははは」

「こら!相場!いくら漫画が面白いからって、大声出すな!」

「さーせん、さーせん」

「いいや、それだけじゃダメだ。没収だ」

「ああっ!携帯だけでいいじゃんか!それ、御子柴の漫画なんだぞ!」

「五月蝿い!人の漫画を読むな!没収!」


先生!そいつ、教室から追い出して!トイレに連れ込んできて!!漫画読んでいるなら、助けに来いよ!



舟には教室の状況など、判るわけもなかったが、親友達の行動パターンくらいはある程度理解している。これでは、このままでは絶対に馬鹿にされる。授業中までトイレにいたのか(笑)、そんな感じに。


「!」


そこでようやく、閃く!よく考えてみれば、今は授業中!つまり、ここから生徒がこのトイレに入ってくる可能性は極めて低い。1分もかけず、下半身丸出しで別の個室にあるトイレットペーパーをとればいいだけじゃね?もし、なくても用具入れの中に紙があんじゃね?



なんだ、簡単じゃねぇか。


「そうだ、それで良いんだ」


パンツ姿で部屋を歩くことだってある。面倒だしな。

自信持っていい。誰もいないことを信じて、…………扉を空けるのだ。



◇    ◇


ガララララ


「いやー、すいません」

「!舟か。今まで何していた?さっさと席につけ!」


舟がトイレから戻った時、なぜか机に置かれていた相場の携帯と御子柴の漫画。その意味がちょいと分かってしまう舟は気まずかった。そして、相場の方に視線を向けたら、イライラが浮かび上がる雰囲気でうつ伏せになっていた。



携帯が鳴って、漫画まで獲られた。やべぇ、履歴残ってたらバレるな。悪い事した。


舟がゆっくりと自分の席に戻ろうとしていたら、通り道に御子柴の横を通った。聴こえる声で


「あとであんたも、私の漫画を取り返しなさい」

「!」


女の勘か。獲られる原因が、舟にもあると察する御子柴に。舟は席についてから。


「ちゃんと取り戻すわ」


3人で先生に頭を下げて、漫画と携帯を取り戻すのであった。

なんで電話をかけたかは永遠の謎として





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