クシャーク樹海南東の洞窟...隊長としての決断...
ークシャーク樹海、南東の洞窟ー
エルフの少女と護の周りに、隊員達が全員集合した。
「落ち着いたかい?」
「...はい...もう大丈夫です」
「なら、もう一度最初から説明してくれないか?」
「はい、わかりました...」
シャルと言うエルフの少女は頷き、話し始めた。
「...私の名前はシャル・ウルゥ・ミハエラ、ルシーナの里のハイエルフです」
「この世界には、君たちの仲間は多くいるのかい?」
「いえ...私たちハイエルフは、とても貴重らしくて、数はほとんどいません。この世界の人口の大半を占めているのは、人間です」
「そうか...それと...いきなりなんだが...俺、敬語嫌いだからさ、敬語はなしにしてもいいか?そっちも俺のことは護ってよんでもらっていいからさ?」
「は、......う、うん。じゃあマモルって呼ぶわ。」
「そうしてくれると助かる。それで、村を救ってっていうのはどういうことなんだ?」
「.........」
「辛いのなら、今すぐに言わなくていいけど、どうする?」
「ううん、言わなくちゃいけない。私はそのために来たんだから!」
「わかった。それで、里で何があったんだ?」
「...実は...」
暫くの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「実は...私たちの村が怪物に襲われたの...村の防衛隊のみんなが必死に戦ったけど、全く歯が立たなくて...それで..村はほぼ壊滅して...私は命からがら逃げ出せたけど...私を...逃がす...ために...父...さんが...」
そう言っているうちにまた、シャルの頬を涙が伝う。その肩を井上が抱きよせた。
「...辛かったよね...寂しかったよね...怖かったよね...でも大丈夫。私たちがいるから...」
井上の目にも涙が溢れていた。
「...でも...でも私は、どうしても村のみんなが全滅したなんて思えない!みんなは絶対に生きてる!この辺り一帯にいた盗賊がどんな奴だったかは知らない。でも恐ろしく強い人たちで、国王軍も放置してるってみんな言ってた。そんな人たちを倒すってことは、あなた達もとても強いってことでしょ!?」
そしてシャルは涙を流しながら、頭を地面につくほど深く下げた。
「だからお願いです!私たちの村を、あいつから取り返してください!私たちを...助けてください!!」
「...取り敢えず、そいつの特徴を教えてくれ。」
暫しの沈黙の後、護はそう呟いた。
「うん、奴は全身が硬い鱗で覆われてて、普段は薄暗い洞窟の中に住んでいるの。大きさは30m位で、背中には大きな棘、大きく膨らんだ棍棒のような尻尾、そして口からは炎を噴くわ」
そう言ってシャルが描いた絵を見ると、それはまるでティラノサウルスのような顔に胴体、そしてトカゲのような4本の足、敵を串刺しにするような棘に、当たれば高機動車なんて一瞬で破壊してしまう質量を持っていそうなコブの付いた尻尾。そして何よりも、鉄板のように身体を覆う鱗の付いた生き物が描かれていた。いくらFVと言へども、所詮旧式の武器である。絵を見る限り、FVの砲弾でこの鱗を叩き割ることは明らかに不可能であると判断できた。
「これが、私が持っているあいつの情報全て。お願い!あいつを倒すのに力を貸して!」
(どうする...俺たちに、この子を助けることが出来るのか?)
護の心の中は、彼女の話を聴いている間、そして話を全て聴き終えてからも、その思いが居座っていた。護個人の気持ちとしては、彼女を是非助けてあげたい。しかし、いくら性能がいいから使われていると言っても今ある21世紀の旧式FVでは、奴を倒せず、例え倒せたとしても、自分たちの中で誰かが死ぬことは目に見えていた。助けてあげたいが、隊長と言う立場にあるせいでそれは出来ない。
(何か...何かこの子を助ける方法は...方法はないのか...?)
「うわぁ~硬そうだな...」
「確かに、こいつを倒すとなると骨が折れそうだ...」
「でも大丈夫!私たちならなんとかなるよ!そうですよね?隊長?」
井上が、護を信じきっている様子で見つめいる。その眼を見て、
(死なせたくない...)
そう思った。
(こいつらを死なすわけにはいかない...どうすれば...!!!)
護の頭の中にあるひとつの方法が浮かび上がった。
そして護は、それを実行するため、小隊の隊長としての決断を下した。
「こいつの討伐には...協力出来ない...」
「「「「!!?!!?」」」」
それが、護の出した決断だった。
「...へ?....」
シャルは、まだ何が起こったのか理解できてないようだ。
「なんでですか!!?隊長!!!」
護ならやってくれる。完全にそう思っていた井上が護に詰め寄る。
「どうしてですか!!?彼女がこんなに困っているのに、どうして協力してあげないんですか!?私たちは、自衛隊でしょ?みんなを守るのが仕事なんでしょ?だったらなんで...「井上ッッ!!!」
「ッッ!!!!!」
滅多に怒ることのない護が、井上を怒鳴りつけた。その眼の中には、激情の炎が渦巻いていた。
「貴様、何様のつもりだ?お前は俺の上司か?教官か?違うだろう!!お前は、俺の部隊の隊員の井上 香 陸士長だ!!お前には俺に命令する権利なんてない!!第一、このFVだって旧式の武器だ!こんなのであんな奴の皮膚をブチ破る事ができるわけないだろ!俺たちの中の誰かが確実に死ぬぞ!!」
「.......」
唯一彼女の話を聴き終えても何も言わなかったハカセが口を開いた。
「隊長の言ってる事は的を射ているし、実際その通りだよ...この絵を見た限り、旧式のFVじゃあ奴の皮膚を貫通させることなんか出来ない。他の方法にしても、必ず死人は出る...隊長としてはここで軽く決断できることじゃないし、してはいけないと僕も思う...」
それを聴いて、他の隊員も黙ってしまった。
「でも...でも...」
それでも井上は食い下がる。
「いいか、井上...」
護が再び口を開いた。
「お前の考えてる事は、甘っちょろいお子様の考えだ!戦場で俺たち待っているのは、生か死のどっちかなんだ!任務に挑むなら自分の命以外の全てを失う覚悟を持って挑め!いいか?【理想じゃ誰も救えない!!】...命を落とす危険性が高い任務には第39試験小隊は動かない...もう一度言う、俺たちはこいつの討伐には協力しない。これは命令だ」
そして、その答えを聴いて放心しているシャルに近づき、
「申し訳ないが、俺たちは君の頼みを叶える事は出来ない...他をあたってくれ...」
そして最後に、何か耳打ちし、彼女から離れていった。
(協力はしない)
これが、護の『隊長として』出した決断だった...
ーpm8:40ー
「それで、あの子はどうなった?」
「疲れて寝ちまったよ...井上もな」
「そうか...悪いな、響」
そう言われて、響は複雑な表情を浮かべ護に問いかける。
「なぁ...本当に無理なのか?今の装備で他に出来る事は無いのか?」
「...残念だが無理だ。俺も一応隊長だからな...今ある武器の機能と能力を頭に叩き込まれてる。だから、考えれば考える程分かるんだ...この装備じゃ、確実に死人が出る事が...」
護を含め、小隊長は、いついかなる時でも現存の戦闘力を分析し、その時点での最善の決断が出来るように、最新式.旧式にかかわらず、武器の性能、弱点、地形ごとによる戦術を全て叩き込まれている。よっぽどの事が起こらない限り、小隊長の判断は、その時点での最善の判断なのだ。
「...そういう事なら、お前の判断は間違ってなかったと思うぞ?俺には分かる...お前も助けたかったんだろ?でも隊長だもんなぁ...軽はずみな行動はできないよな...」
小隊の隊員全員の命を任されている以上、護は軽率な命令は出来ない。その事を、響はよく理解していた。
しかし、響がそう言っている間、護は顔を伏せ、何かを呟いていた。それに気づいた響が、不審そうな表情を見せる。
「おい...どうしたんだ?護?」
「...せめて...レールガンでもあればなぁ...」
「は?お前を言って...「もし俺に何かあったときは...この小隊を頼む...」
「おっ...おい護?」
そう言って響の問いかけに護は答えず、寝床へと消えていった。
ーam6:15ー
その知らせは倉田の叫び声と共に突如舞い込んだ。
「副隊長!!隊長がいません!」
「は?...隊長なら...あの子慰めに行ったんじゃないの?」
「それが...あの子も隊長同じくいなくなっていて...
「「「「!!?!」」」」
「隊長の寝袋の上に...こんな手紙が...「よこせ!!!」
響が、倉田の持ってきた紙切れを奪い取り、目を通していく。
「副隊長!高機動車もなくなっています!!それと...管理していた弾薬も大量になくなっています!!」
山口の知らせに、全員が驚く。
「まさか...たいちょ「畜っ生ぉぉッッ!!!」
響が、手紙の内容を知り、思わず叫んだ。
『これより単独任務に出る。指揮権は今後全て佐山 響 二等陸曹に譲る事とする。尚、武器と弾薬の持ち出し記録は下に添付しておく。
日向 護 陸曹長 2356年 7月24日 』
To be continued ...