クシャネルゼ公国...新たな火種...
ークシャネルゼ公国首都、中心部ー
「こっちだこっちーそうだ、ゆっくり引っ張れ~」
倉田の指示で、高機動車が崩れた瓦礫を積んだ荷馬車を引っ張っていく。それを街の人は物珍しそうに眺めていた。
「これが、貴殿達の国の荷車か?馬はどうしたのだ?」
ミーシャも興味深々で護に聞いてくる。
「馬で引かなくても、こいつは進む様にできているんですよ。」
「成る程!という事は、これは貴殿達の魔導で動いているのだな?」
「...ま...まぁ...そんなところですね...」
(本当は、ガソリンで動いてるだけなんだけど...
)
「むむむ...実現不可能と言われている魔導四輪車を作り上げてしまうとは...何という技術力...」
ミーシャはそれを鵜呑みにして、難しそうな顔で唸っている。
「ヒューガ殿!」
「はい?」
「この魔導四輪車を、我々に売ってもらうことは...「無理ですね...」
即答である。これから何が起こるか全く分からない異世界で、わざわざ現時点での貴重な移動手段であり戦力である高機動車を、敵になる可能性のある人たちに売るようなバカはここにはいない。
「やはりか...」
それを聞いて、ミーシャはガクリと肩を落とした。
「ところでミーシャさん。王国軍の人たちの容態はどうですか?」
「ああ、貴殿の部下のおかげで骨折をしている者はいるが、全員生きている。ヒューガ殿達には本当に感謝しているよ...」
「そうですか...よかった...」
「フフフッ、ヒューガ殿が心配する必要は無い事なのに、心配してくれてありがとう。ヒューガ殿は優しいのだな...」
その様な話をしていると、
「あの...ヒューガ様...」
背後から護を呼ぶ声がした。
護が振り向くと、そこには大勢の町人達が集まっていた。
「この度は、この街を救って下さってありがとうございました。」
そして、この街の町長と思わしき人が金貨の詰まった大きな袋を護に差し出した。
「これは、私共からの出兵の資金でございます。是非、今回の戦いでの出費の足しにしてもらえたら...」
「ああ...えーと...すみません。俺たちお金は受け取れないんですよ...いりませんので、街の復興の資金に使ってください。」
そう、自衛隊は国民の税金で武器を買い、訓練をしているので、国民を守る事は彼らの義務であり、それが仕事なのだ。もちろん、金銭の類を徴収する権利は彼らには無い。
「「「「!!!!!!!??!??!!.???」」」」
しかしそれは、この街の住人たちにとっては、驚くべきことだった。
「お金はいらないのか!!?ならば、何故貴方たちは私どもを守ってくれたのですか!!??」
「俺たちはお金をとることじゃなく、国民を、そして活動地域の住民を守ることが仕事ですから。」
ますます訳がわからない...お金目当てではないのなら、この人たちは何故自分たちを守ったのだろう。
「隊長~瓦礫の撤去完了しました~」
「分かった~。それじゃあ皆さん、これから大変ですけど頑張ってください。失礼します」
そう言ってヒューガという少年は、鉄で出来た荷車に乗って、すごい速度で走り去っていった。その荷馬車には、ある模様が描かれていた。町人のひとりが呟く。
「白の下地に赤い太陽...あいつらもしかして...伝説の「太陽の国」の勇者たちなんじゃないか?...」
ークシャーク樹海・南東の洞窟ー
「これより、第ー回定期報告会を行う。」
護の声で、会議が始まった。
「それぞれ報告を頼む。」
「んじゃ、まずは俺から...」
留守番組の指揮官であった響が、これまでの出来事の報告をする。
「俺たちの所へは、別にお客さんは来なかったな。特に変わったことはなかった。お前らの方こそ、大丈夫だったのか?」
「ああ。こっちは、前に無線で説明した通りだ。」
「私たちは、どうやら向こうの住人と極めて良好な一次接触が出来たようです。隊長、私、倉田さん、村上さんなら、ほぼすべての住人の皆さんが顔を覚えてくれたので、大抵のことは融通をきかせてくれる様です。当面の食糧の問題はこれで解決しそうです。」
「だけど、弾薬、その他もろもろが心配だよ...」
今まで89式装甲戦闘車(FV)を組み立てていたハカセが口を開いた。
「弾薬、弾丸、そして何より、問題はガソリンだよ...」
「弾薬と弾はどうにかなるのか?」
「この間倒したゴーレムが鉄で出来ているなら、それを貰ってこれれば薬莢と弾頭はなんとかなるよ。それに、僕たちの世界とよく似た成分の物質があれば、山口さんに頼めば、弾薬の調合も問題無い。今、余った部品で、弾と薬莢を作って弾薬を詰める機械を作ろうと考えてるんだ。でも、それもやっぱりガソリンが無いと動かない。隊長、せめて油田なんかが無いかミーシャさん...だっけ...?に聞いてくれないかな?原油があれば、ガソリンを作れるよ」
「ガソリンが無いと俺たちが何もできないってことをこの世界の人々に知られたらことだけどなぁ...分かった。それとなく聞いとく。それと、燃料は後どれくらいあるんだ?」
「僕たちが目覚めた所に燃料の入ったドラム缶がかなりあったから...多分このまま使っても3...いや4ヶ月位はもつよ。燃料は、まぁ今すぐって言うわけでも無いかなぁ...」
「そうか...それより、実際どうなんだ?俺たちは...元の世界に帰れるのか?」
「少なくとも...向こうからこっちの世界に扉を開くのは、今の日本の技術じゃ無理だと思う。元の世界に戻る方法として今考えられるのは二つ。一つ、僕たちが経験したような現象が向こうで再現されて、自衛隊がこっちに偵察に来るまで待つ。これはいつになるか全く分からない。もう一つは...この世界に別の世界との扉を開く魔法がある事を期待して、それを探しに行く。」
「あると思うか?」
「どうだろう...それは今の段階じゃ分からないよ...」
「...問題山積みだな...橘、医薬品はどうなんだ?」
「今のところ大丈夫だと思います。幸いなことに、この世界に飛ばされる前の私たちの任務は荷物の積み込みでしたから、演習と同じ量の医薬品も積み込まれています。ですが、手術する必要がある程の怪我をしたら、手術道具が少なすぎるので対処出来ない場合があります。」
この部隊の衛生班、橘 葵 三等陸曹はそう答えた。橘は、17歳という年齢でありながら、アメリカの大学を卒業し、看護師資格では無く医師免許を持っている天才である。
「そうか、ところでFVはどうだ?ハカセ」
「組み立ては終わったよ。弾を込めれば、いつでも発進できるよ。」
なんと、あの巨大なFVをハカセはあれからたったの29時間で組み上げたのである。ハカセが組み上げたのは、89式装甲戦闘車、通称「ライトタイガー/FV」と呼ばれるもので、戦車に似た形をした戦闘車両である。
「それじゃあ、操縦は田中、頼むぞ」
「了解です!」
操縦士である田中 真斗三等陸曹が答えた。田中は、戦車の他にも、ヘリの操縦もできる。10年に一人と言われている逸材である。また、技術科の山口 絢香 三等陸曹は、ハカセ、橘と組めば、あらゆる爆薬や毒を作ることができる開発、調合のスペリャリストである。
「それと最後に、倉田、村上、君たちの活躍のおかげでゴーレムを撃退できた。それから井上、君の適切な処置のおかげで王国軍の死者は0だそうだ。俺は、こんな仲間を持てて誇りに思う。そしてこれからも、よろしく頼む。」
「「「隊長...」」」
倉田と村上は照れ臭そうに笑い、井上は顔を真っ赤にする。3人ともとても嬉しいようだ。
(((この人に一生ついて行こう)))
3人はその瞬間心からそう思った。
「それじゃあ、今日の報告会はこれにて終了とする。全員解散。」
ークシャネルゼ公国、王都、宮殿内部、王の間ー
「ミーシャ・ネス・クターク今回のゴブリンの殲滅、そしてゴーレムの破壊、大儀であった。妾はそなたを誇りに思うぞ」
国王であるサシャ・マルク・レミーナはミーシャの苦労をねぎらう。
「ありがたき幸せ。」
口ではそう言っているが、ミーシャの表情は複雑だった。
(ゴブリンを倒したのも、ゴーレムを破壊したのも、すべてヒューガ殿達であるのに...)
「それで、どの様にしてあの鋼鉄のゴーレムを破壊したのだ?妾に聞かせてみよ。」
国王レミーナは興味深々でミーシャに近づく。
(本当は私では無くヒューガ殿達が祝福されるべきだ!...よし!!)
その様子を勘違いしたレミーナは、ミーシャを気遣う様に肩に手を置いた。
「ミーシャよ。ゴブリン、そしてゴーレムと戦い、勝ったことだけでは無く部下を一人たりとも死なせずに帰ってきたのはとても名誉なことなのじゃ...そう自分を責める必要は...「そうでは無いのです!!!此度の戦果は私のものでは無く、すべて異国の地の者達のものなのです!!」
「...ほぅ...王国一の武人であるそなたにも勝る者とは...」
そう呟き、レミーナはいたずらっ子ぽくニヤリと笑った。
「面白い。その話、詳しく話せ。」
「...はい...実は...」
この時の会話が、後の護達の運命を大きく左右する事となる...
ークシャーク樹海、南東の洞窟ー
ピーン...ピーン...ピーン...
「!?」
生命体反応レーダーで見張りをしていた井上が、レーダーの示す異変に気付いた。
「隊長!樹海の北東でまとまった生命体反応あり。こっちに近づいてきます。」
その声で、隊員達の目の色が変わる。
「距離は?」
「距離900、数は5です!」
「全員、戦闘準備!!敵であれば撃退する!!」
護の声で全員が、迎撃の準備をする。しかし、レーダーを見ていた井上が、何かに気づいた。
「隊長...これ、一人が四人に追いかけられている様に見えませんか?」
「マジかよ...井上!橘!俺と一緒に来てくれ!」
「「了解!」」
「おっおい!?ちょっと待てよ護!」
「わりぃ、あと任せた!!」
そう言って護たちは、高機動車に乗り、樹海の奥深くへと向かって行った。
「響、目標までの距離は?」
『ザザッ...相っ変わらず無茶するよなぁお前は...俺がいなかったら死んでるぞ3回くらい...目標まであと100を切った!注意して進め』
「サポートサンキュー。全十警戒!異変があれば報告!」
「隊長!前方から何かが接近!」
『多分そいつが目標だ!...ザザ...目標まで52!』
「やっぱり...誰かが追われてる!!相手はゴブリン、追われているのは人です!」
「またかよ!!いいか?ゴブリンとあいつの間にこいつで割り込む。二人は一斉射撃で殲滅しろ!」
「「了解!」」
「いっくぞ~!!それっ!!」
掛け声と共に、護はアクセルを踏み込み、高機動車は唸りを上げてゴブリンの前に突っ込んだ。
「今だ!!一斉射撃ぃぃぃ!!!」
バババババババッッ!!!!
一斉に打ち出された5.56mm弾が、4匹のゴブリンを直撃、蜂の巣とした。
キキィィィ~~...バタンッ!そして高機動車は、護の見事なハンドル#捌__さば__#きにより、樹木にぶつかる寸前で停止した。
「ふぃ~...危なかった...」
「隊長!」
向こうから井上の呼ぶ声がする。
「どうだった?何かその人からは聞け...!!!??」
井上の所まで歩いて行った護は、倒れていた人物を見て絶句した。
「マジかよ...」
倒れていたのは、笹の葉のような耳が特徴的な金髪のエルフだった...
ー数分前ー
「ハァ...ハァ...ハァ...」
彼女は、緑の人がいると言われている樹海の中を走っていた。その後ろを、ゴブリンたちが追いかける。
「ハァ...ハァ...こんな...時に...」
彼女は緑の人を探している途中、運悪くゴブリンの集団は鉢合わせしてしまい、今に至る。
「ハァ...ハァ...風の妖精よ...我に大気の力を与えたまえ!!!」
彼女は、手をゴブリンの方に向け、何度目になるか分からない呪文を叫んだ。
ビィィュゥゥゥウ!!
その瞬間、高密度に圧縮された空気が、ゴブリンの一匹を直撃、後方に吹き飛ばした。それに逆上したゴブリンが、手に持っていた棍棒を彼女に向けて放り投げた。
ガンッッ!!
精霊魔法の多様と、長距離移動の疲れで、反応が鈍っているところに、棍棒が彼女の頭を直撃した。
「くぁっっ...」
走っていたスピードを殺し切れずに地面に倒れ込み、そのまま数メートル先まで転がる。
「ハァ...ハァ...」
意識が朦朧とする中、彼女はなおも逃げようとする。しかし、疲労と棍棒の直撃による#脳震盪__のうしんとう__#で、身体が思うように動かなかった。しかし、
(ここで死んだら...村のみんなが...父さんの死が無駄になる...死んでたまるもんですか!!)
その諦めの悪さと根性に神が救いの手を差し伸べたのか、目の前にすごい速さで何かが割り込んで来て、
バババババババッッ!!!!
爆音と共にゴブリンを吹き飛ばした。
(何?...何が...起こったの?)
薄れゆく意識の中、
「あなた、大丈夫!!?しっかりして!!」
誰かに助けてもらへたのは、辛うじて理解できた。そして、その人たちが着ている服は、緑色に染まっていた。
(よかった...緑の人だ...これ...で..村の..みんなも...助け...)
疲労と#脳震盪__のうしんとう__#の影響で、彼女の意識は闇へと落ちていった。
ークシャーク樹海、南東の洞窟pm9:45ー
全員が目の前の人物が本物であると信じきれてなかった。
「隊長...」
「...ん?」
「この子...エルフっすよね...」
倉田がみんなの思っていることを代弁して呟く。
「...そう...なんじゃないか?」
目の前にいる金髪のエルフ?は頭に包帯を巻かれ、簡易ベッドに横たわっていた。
「橘、どうなんだ?容態は」
「今は峠を越えました。多分、あの時そばに落ちてた棍棒が直撃したものと思われます。あと少しずれてたら、死んでいました...」
「そうか...それで、目覚めそうか?」
「今日は確実に目が覚めないと思います。人間の常識で考えたらですけど...」
「それじゃ、俺と橘でこの子の見張りをしよう」
「了解です」
「あのぉ...」
「「?」」
井上が申し訳なさそうに口を開いた。
「私も、気になるんで一緒に起きていてもいいですか?」
「井上...まぁいいか。それじゃ頼む。」
「了解!」
「あとの全員はさっさと寝ろよ。解散!」
ーpm11:26ー
パチパチと焚き火が燃える。その火の明かりが、護と井上の顔を映し出す。
「橘さん...寝ちゃいましたね...」
「そうみたいだな...」
一番起きていなくてはいけない橘は、目の前で気持ちよさそうに眠っていた。
「この子...起きますかね...?」
「橘の処置に間違いはなかったはずだから、起きるさ、きっと...」
「そう...ですよね。隊長...」
「ん?」
「なんだか、あの時みたいじゃないですか?」
「あの時?」
「ほら、私が崖崩れに巻き込まれて、隊長が助けようとして一緒に落ちちゃって、助けが来るまで一緒に谷底にいたじゃないですか。」
「ああ、あの時か...確かにあの時みたいだな...」
「夜空もあの時と全く同じですよね。」
「確かに、あの時見た空も...こんな感じだったな...」
護はあの時の満天の星空を思い出した。
「でもあの頃のお前、スゲー怖かったな...」
「おっ...思い出さないでください!!あの時の事は黒歴史なんですから!!」
「へいへい、忘れた忘れた...」
「もう...でも...隊長が初めてなんですよ?私が...心...開いた...の...」
「...井上?」
護が肩に体重を感じ横を見ると、
「スゥ...スゥ...スゥ...」
井上が護の肩に頭を乗せ、気持ちよさそうに眠っていた。
(変わったよなぁ...こいつも...)
そう思ったところで、護も睡魔に襲われた。
「おやすみ...」
そう井上に行ったところで、護の意識も、夢の中へと落ちていった。
ー次の日、am8:10ー
村に突然現れた怪物、そいつがあちこちの建物を破壊し、仲間を喰っている。
「グゥゥァァアアア!!!」
叫び声とともに奴が火を噴く、村が毒々しいほど真っ赤な炎に包まていく。
「シャル!お前は、逃げるんだ!できるだけ遠くに!!」
「でも...父さん!!」
「俺のことはいいから!!早く行け!!!早く安全なところへ行...」
その瞬間、父の姿が消えた。
「父...さん...?」
すぐそばにいたはずの父親は、奴の舌に絡め取られ、もがいていた。そして...
バクンッ!!
奴の口の中へと消えていった。
「父さん...?嫌...嫌...イヤァァァァァァァァ」
「はっ!!」
彼女は、毛布をはねのけ、飛び起きた。口の中が渇いている。汗で気持ちが悪い。
「おはよう」
「!!??」
その声とともに、彼女の意識は覚醒した。
(そうだ...私、またあの時の夢を...でもここは?)
そう思い、彼女は周りを見渡す。
(洞窟の中?それに、見たことのないおっきな荷車...私が寝てるのは...ベッド?)
そこで、だんだんと意識がはっきりとしてきた。
(そうだ...私は、緑の人と会おうとしてゴブリンに襲われて、緑の人に助けられて...それじゃあ、ここは緑の人たちの根城!?)
そう思って声をかけた人を見ると、その人も緑色の服を着ていた。
「あっ...あなたは、緑の人ですか!!?」
突然の問いかけに少し戸惑いながらも、緑の人は答えてくれた。
「まぁ、こんな格好してたらそう見られちゃうか...多分、君の思っている緑の人は俺たちのことだよ。」
その答えを聞き、彼女は安堵の声を上げる。
「よかった...ちゃんと会えた...」
そしてその頬を、涙が伝う。
「ちょっ...ちょっと君、大丈夫!!?」
「グスッ...大丈夫です...」
涙を拭い、彼女は自分の目的を達成すべく、口を開いた。
「私の名前は、シャル・ウルゥ・ミハエラあなた達緑の人にお願いがあって参りました。」
「お願い?」
「はい...」
「私の故郷、村を救ってください!!!」
To be continued ...