特訓①
茜が襲われた翌日から、虎による特訓が開始された。
まずは猫パンチ。
「どうやるの?」
茜の問いに虎は答えた。
「手の爪を出して横っ面を張り倒すんだ」
「爪を出すってどうやるの?」
「出来ないのか?」
「……だって元々猫じゃないし、わかんないよ」
虎はどう教えるのか考え始めた。そして自分の手を見つめてひらめいたようだ。
「まずは、そうだな。手を広げるんだ。それで爪を押し出す感じだな」
「やってみる」
茜は手の指を広げてみた。意外にも広がることに驚いていた茜だが、爪を押し出す感じがわからない。
「手は広げられたけど、爪が出ないよ」
「どれ、手を貸してみろ」
茜が虎に手を差し出すと、虎は茜の肉球を押した。すると茜の手から爪が出てきた。
「感じは掴めたか?」
「うーん、なんとなく。爪が出るのはわかった」
「じゃあ次は猫パンチだな」
「どうするの?」
「相手がいないしな。とりあえずは素振りだ」
え?スポ根?体力ないんだけどな。でも、昨日みたいなことは嫌だし、自衛のためには必要なのかも。
茜はそう思いながら、素振りをすることになった。まずは虎が見本を見せる。ぶんっと凄い音がした。
「茜、やってみろ」
「うん」
茜は渾身の力で素振りをしたはずだった。しかし、その素振りは、「ふよん」と柔らかな風のようだった。虎の素振りとは全く違う。力強さがないのだ。虎もそれを見てため息をついた。
「茜、それじゃあ猫パンチになってねえよ。とりあえずはさっきの俺みたいにならないとな。だから素振り50回だ」
「えっ?そんなに!?」
「少ない方だ。皆強くなるために日々の鍛練はしてるんだぞ」
その言葉にも茜は衝撃を受けた。
可愛らしい猫たちが、毎日の鍛練を欠かさないなんて……。
しかし、強くなるためには仕方がない。茜は虎に教わったように、爪を出しながらの素振りを50回行った。最初は「ふよん」という感じだったが、「ひゅっ」と少し空を切るようになった。
「虎!少し上達したよ!」
「そうだな。これから毎日、猫パンチの素振りを50回するんだぞ」
「えっ、毎日?」
「そうだ。それに両手で出来るようになれ。つまり、片手が50回だ」
「ええ~?本当にスポ根?」
「なんだ、スポコンって?」
「……いや、こっちのこと……」