満月の夜
ばあさんは話し始めた。
「私が聞いた話は、夜に猫になっちまったって話さ。本当かどうかはわからないけどね。でもその後、人間に戻ったって聞いたね」
「どうすれば戻れるんですか!?」
「詳しいことは知らないのさ。なんでも満月の夜と相手が必要だってことだけさ」
「相手?」
「交尾の相手さ」
茜は絶句した。
まさか、猫のまま!?
「ああ、思い出したよ。人間の相手と満月の夜が関係してるらしいって聞いたね」
それって満月の夜に彼に会えば戻るの!?でもどうやって彼の家に行ったらいいのかわからない……。どちらにしろ満月まで当分はこのまま生きていかないといけないのね。
「ありがとよ。ばあさん。今度は手土産持ってくるからな」
「ああ、わかったよ。お嬢さん、虎はこの辺でもボスだから、虎と一緒にいれば怖いことないよ」
「……ありがとうございます」
それから虎と一緒に公園に戻った。
「茜、これからどうするんだい?」
「……うん、しばらくここにいてもいい?行くとこないし」
「俺は構わねえけど、俺の女ってことにしとかねえとな」
「なんでそうなるのよ!」
「あのなあ、この辺だけでも男は一杯いるんだよ。俺の女なら誰も手出ししねえからよ」
そう言ってから虎はそっぽを向いた。どうやら照れているらしい。
「……わかった。ありがとう」
「……ああ、まあ、そういう訳だから、寝起きは一緒になるけどよ。気のねえ女に何かしたりしねえからよ」
虎は紳士的なようだと茜は思った。
後は満月の夜を待つしかないのかしら……。