ばあさん
『ばあさん』のところへ行くには公園を横切らなくてはいけないらしい。茜は疲れてしまっていた。二日間飲まず食わずだったのだ。
「お腹空いた……」
「腹減ったのか。ばあさんのところへ行けば何かしらあるぞ。本当はこっちも何か持っていかなきゃならねえが、緊急みたいだしな」
「……ありがとう」
黒猫の言葉が身に染みた。
ほどなく『ばあさん』の家(?)に着いた。ある家のトタンが屋根の場所が家らしい。
「よう、ばあさん。元気かい」
「おや、虎じゃないか。珍しい。それに可愛いお嬢さんが一緒じゃないか。とうとう結婚するのかい?」
「違います!」
返事をしたのは茜だった。虎と呼ばれた黒猫は肩をすくめている……ように見える。
「ばあさん、このお嬢さんが話があるのさ。ただその前に何か食わせてやってくれ。腹が減ってるらしい」
「おや、可哀想にね。じゃあとっておきのを出そうかね」
『ばあさん』は一旦奥へ行くと、何かをくわえてきた。魚だった。
「ばあさん、豪勢だね。どうしたんだ、これ」
「ああ、隣の家の人間が床に落としたらしくてね、持ってきたのさ」
茜は驚いた。刺身用じゃない魚を生で食べるというのだ。
生魚!?焼いたりしなくても大丈夫なのだろうか。お腹壊しそう。でも、お腹空いた。
茜は意を決して伝えた。
「いただいてもよろしければ……ください」
「ああ、お食べ」
茜はそっと魚を口にした。
うっ、生臭い。でも我慢だわ。今度いつ食べられるかわからないんだもの。
茜は魚の半分ほど食べて、ようやくお腹が満たされた。
「ごちそうさまでした」
「礼儀正しい子だね。どこの子だい?」
「それをばあさんに聞きに来たのさ」
虎が話し始めた。
「このお嬢さん……名前を聞いてなかったな。なんて言うんだ?」
「……茜」
「名前も可愛いね。で、茜は自分が人間だったって言うのさ。そんなことあるのか?」
ばあさんは考え込むように、右手を口元に当てた。
「ああ、昔の話だが聞いたことがあるね。でも本当かどうかはわからないよ」
「それでもいいです!教えてください!」
茜は藁にもすがる思いだった。