危険な恋人達
興味半分に『死霊の館』のゲームを起動してはならぬ。
起動したらあなたは、デッドゾーンに召喚され『死霊の館』の
ゲームキャラクターにされてしまうだろう。
『死霊の館』を起動してデッドゾーンに迷いこんだ人間は30人。
元の世界に生還出来るのは2人。
今デッドゾーンで壮絶なる戦いの火蓋が切られようとしていた。
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私の名前は、
月島弘美。
現在26歳。
3年前に両親の結婚記念日に3人で1泊2日の温泉旅行に行った。
旅費は2歳上の姉(真理)とあたしで捻出。
最初は家族4人で行く予定だった。
ところが姉が風邪を引いて寝込み、結局3人の旅行になった。
あたしはゲーム会社に勤務していて仕事は多忙を極めていた。
そのため当日は始発まで仕事。
本当はあたしの運転だったが、あたしが寝不足の為、父の運転で朝7時に
家を出て伊豆へ向かう事になっていた。
あたしは倒れ込むように後部座席に乗り込んだ。
ほとんど寝てないので眠たい筈だが、奇妙に頭の芯は醒めていた。
あたしが初めて書いたシナリオのゲームを完成させたのは朝の4時であった。
心の中で、何度も
『万歳、万歳』
と叫んだ。
これからが本番である。
このゲームを商品化する為にはゲームのバグを見つけなければならない。
あたしはゲーム会社に就職して半年間、ゲームのバグ探しだった。
バグ探しには自信がある。
あたしの夢は、自分のゲームを作る事だった。その為、現在の会社に就職した。
念願のゲーム完成日が両親の結婚記念日とは、感慨深い物があった。
あたしは、うつらうつらとしていた。
プーンと潮の香りが鼻腔をくすぐった。
海岸沿いを車は走っていた。
あたしは車内に持ち込んだノートパソコンの上蓋を開いた。
そして私の自信作『死霊の館』を起動した。
不気味な効果音が鳴り響く。
「気味が悪い音楽ね」
母さんが後ろを振り返りながらつぶやいた。
「雨か」
父さんがぽつりと言った。
今まで晴れていたのに東の空は真っ黒な雲が渦を巻いていた。
「変ねぇ。
さっきまで晴れていたのに……」
母さんの独り言が聞こえる。
フロントガラスを大粒の雨が叩く。
あたしはゲームの効果音を小さくしようとするが逆に大きくなる。
その時、真っ黒な物がフロントガラスに映った。
『ドーン』
衝撃音と風圧であたしは意識が遠のくのを感じた。
あたしは病院で目覚めた。
あたしは何故、病院のベッドに横たわっているのか解らなかった。
姉と名乗る人が手鏡で、あたしの顔を見せてくれたが見知らぬ女が写っていた。
病院の診断では頭部の衝撃による記憶喪失と言う事だった。
意識が戻って1ヶ月間病院に入院している間に、あたしの名前や婚約者の名前や写真、そして両親の写真を見せて貰ったが、見知らぬ人や知らない名前ばかりで何故か絵空事のように思えた。
病院を退院して2ヶ月経過した頃から、断片的ではあるが記憶が少し戻って来た。
事故の原因は居眠り運転のトラック。
車は大破。
両親は即死。
あたしだけ助かったらしい。
事故後、姉と一緒に国分寺駅から歩いて10分の賃貸マンションを借りた。
事故から3年経過したのに、まだ婚約者の顔は思いだせない。
……と言うか婚約者に会っても、本当にそうなの?
あたしの好みのタイプではなかった。
あたしは、太った人がタイプだから違和感があった。
心の底で、こんな人が、あたしの婚約者である筈がない。
と、否定するあたしがいた。
事故で頭を強打したのが原因か、時々現在の記憶が途切れることがある。
このことは、まだ姉にも話してない。
奇跡的に助かったのは、今回が2回目。
1回目は3歳の時、マンションの6階から落ちて、かすり傷ですんだ事。
当時の新聞の切り抜きが写真と共に残っている。
あたしは強運の持ち主らしい。
事故で記憶喪失になったのに3歳の時の忌まわしい出来事が最近、夢に出て来た。
夢の中であたしは子供の頃の自分の部屋に居た。
3歳の女の子がリカちゃん人形を抱いてスヤスヤ寝ていた。
時おりカーテンが揺れている。
窓がすこし開いているらしい。
雨の臭いに混じって生ゴミが腐ったような臭いを風が運んで来る。
見覚えのある部屋であった。
子供の頃の自分の部屋。
寝ているのは3歳の頃の自分であった。
あぁ……。
これは夢だな。
漠然と感じた。
『ガチャガチャガチャ』
誰か部屋の外にいる。
スッー
と音もなくドアが開いた。
その瞬間、気配を感じた。
あたしは目を凝らした。
誰もいない。
……でも、何かがいる。
『あっ!』
あたしは声を飲み込んだ。
ベッドの上の毛布がゆっくりと動いている。
毛布がズレ下がる。
あたしは、
『起きて逃げて』
と叫ぼうとしたが声がでない。
毛布の間から白い手が現れた。
そして、ぬぅーと全身が現れた。
びしょ濡れの少女であった。
幼児が天井のあたしを見上げた。
顔は紫色に変色して、ぶよぶよと膨らんでいる。
瞳はドロリと垂れ下がっていた。
少女の赤黒い唇が邪悪に歪んだ。
見覚えがあった。
5歳の頃の姉の真理であった。
リカちゃん人形を奪われて、子供のあたしはベッドから起きた。
『……かえして……だめ……』
姉は片足を引きずるようにしてノブに手をかけた。
子供のあたしは濡れた床に足を滑らせ右手を泳がせながら転んだ。
右手が姉の肩と髪に触れる。
ズルリと髪と赤黒い頭皮が床に落ちた。
『ゴボゴボゴボゴボ』
ベッドの下から唸りのような音が襲って来る。
すると突然、溢れるように黒い水がベッドの下から湧き出して来た。
どんどん水が溢れ二人とも黒い水に飲み込まれた。
水かさが増して天井まで近づいて来た。
水の中に手が見えた。
あたしは手を伸ばして掴んだ。
グイと物凄い力で水の中に引っ張られそうになった。
あたしは渾身の力を込めた。
『しゅるしゅる』
あたしの腕に黒髪が絡み付いた。
『いゃあぁぁぁ』
自分の悲鳴でガバッと飛び起きた。
あまりにも生々しく目覚めてからも暫く動悸が収まらなかった。
子供の時の夢はその時の1回だけ。
でもよく見る夢があるわ。
『もう勘弁してよね』
という感じの夢なの。
ふと気が付くと、あたし両手を後ろで椅子に縛られている。
そして足首もロープで椅子に固定されているのよ。
目の前にいるのは、あたしの婚約者だったと聞かされた人と彼の友達。
何故か3人とも怯えている。
部屋が、グニャリと歪んで揺れ動く。
(地震なの?
どうしてあたしは縛られているのよ?……ほどいてよぉ)
いつも、
『ほどいてよ』
と叫んでいる。
そして目が覚める。
夢に出てくる、イケメンがあたしの婚約者と姉から聞いていたが、あたしは見覚えが無かった。
彼は毎日見舞いに来てくれた。
病院には2ヶ月入院していた。
退院後あたしは沼田聖也(婚約者)と別れた。
沼田聖也は3年経過しても、あたしの事を諦めきれないらしい。
彼は私が勤務しているゲーム会社の係長。
本当に彼と婚約していたのだろうか?
あたしには信じられなかった。
どう見ても、あたしのタイプではないから。
(事故に遭遇するまでは彼のような男がタイプだったのかな?)




